年収8ケタの女 Vol.1

年収8ケタの女:年収2,500万の開業医。夫との冷え切った夫婦生活に絶望する女医は…

陽菜が見つけたハガキは、ある温泉宿からだった。

裏にはご丁寧に「先日はご宿泊いただきありがとうございました」と記されている。

新商品の仕入れ担当を務めているため、もともと出張や会食という名の外出が多かった康明。しかし、コロナ禍となってもその回数が減ることはなく、陽菜は徐々に夫の浮気を疑うようになったのだ。

そして、今回のこのハガキ。これで明らかに“黒”に近くなった。

「ねぇ、このハガキは何?」

陽菜は極力さりげなく尋ねるようにした。しかし、康明の回答はこうだった。

「…うーん、出張で行ったかな?何だろうね」

陽菜は平静を装っていたが、康明のこの言葉を聞いた陽菜は、心の中で何かがプツンと切れるのを感じた。

― こんな場所、出張で泊まるはずないじゃない…!まともな言い訳もできないの?

そして、瞬時に康明の今までのそっけない素振りの数々が呼び起こされ、それらがまるで澱が重なるように陽菜の心を埋め尽くしていく。

― もう、黙るのは無理…。

悲しさと怒りが頂点に達した陽菜は、康明にこう言った。

「…誰かと泊まったんでしょう?私は、康明が忙しいと思っていたから、家事と育児も全部引き受けてきたのに!」

しかし、康明からの反応は冷たいものだった。

「あぁ、確かにお前は医者だし、稼ぐし、何でもできるよ。俺なんていなくてもいいくらいにね。どうせ俺のこと、ずっと下の人間だと思って見下してるだろ」

逆ギレとも開き直りとも取れる康明の発言。

「何で、そんなこと言うの…?」

悲しさのあまり、陽菜の目には涙が溢れていた。そして、そんな陽菜を目の前にしても、康明は何も発しない。

そんなふたりのあいだには、重い沈黙が流れていた。




「はーい、ご飯できたよ!みんな食べよう。さぁ、パパも座って!」

陽菜と康明の生活は、いつの間にか日常に戻っていた。正確には、陽菜が「無理やり日常に戻した」のが適切かもしれない。

結局、康明とのケンカはうやむやになったまま。「あのこと」には触れないのが、今では夫婦の暗黙の了解になっている。

しかし、ひとりになった時、ふと陽菜は思う。

― こういうとき、どうしたらいいのかしら。「悲しい」とか「寂しい」とか「もっと私のことを見て」とか言って、泣けばいいのかなぁ。

「女性もこれからは自立しなきゃだめ、手に職をつけなさい」

こう両親に言われて育ってきた陽菜は、今まで数多くの努力をして年収2,500万円を得るまでになっていた。

しかし、陽菜の悩みに対して、年収の多寡など無力だ。むしろ今の悩みは、その稼ぎが引き起こしたものとも言える。

稼げることが女にとって幸せなのか、今はこれで本当に幸せなのか、陽菜にはもうわからなかった。

しかし、一方でこうも思う。

― 子どもを産んだ以上、そして自分の医院を持った以上、私は前に進むしかない。歩みを止めるわけにはいかない…。

年収8ケタを稼ぐ女の強さ。

この強さこそ、陽菜の最大の強みでもあり、弱みなのかもしれない。それでも、どうにかして前に進もうと思う陽菜だった。


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▶Next:6月17日 金曜更新予定
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この記事へのコメント

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No Name
康明要る?一緒にいてもストレスなだけじゃない!?
子供のためなのかな。
うちも私が夫より稼ぐけど、夫がそのことに卑屈になったらめんどくさいし、分かってて結婚したよね?と思う。
嫌なら転職してでも年収追いつく努力すれば?
浮気してる場合じゃないでしょ。
2022/06/10 05:1899+返信7件
No Name
こんな男、捨てなよ!
2022/06/10 05:2599+返信4件
No Name
これ、個人の年収で2500万円なんて金額を超えてるなら、康明いなくたって生活できるよね。

離婚した方が良いのでは…😥
2022/06/10 05:2599+返信1件
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