人生を自由に謳歌し、お金はしっかり使う昭和世代
遥がインスタで見つけて以来気になっていたのは、麻布十番にある『歌京』というお店だった。
地下にある店へ足を踏み入れた途端、私たちは言葉を失ってしまう。中には、レトロな昭和時代の小物が大量にディスプレイされていたのだ。
昔何かで見た、大きくてカラフルなMacに、これまた大きなラジカセ。
映画のセットのような店内に、テンションが上がっていく。ただ何よりすごいのは、そこに集っていたお客さんたちだった。
店内には懐メロが流れていて、そこにいるお客さんたち全員で盛り上がっている。そして高級シャンパンが、次から次へと開いていたのだ。
「な、なにこの世界は…」
呆然と入り口で立ち尽くしていると、1人の女性が急に声をかけてきた。
「あら、女の子3人で来たの?私よりだいぶ若いよね、いくつ?」
「あ、えっと…。全員27歳です」
彼女の腕には、カルティエのLOVEブレスのフルダイヤ。左手の薬指には、見たこともない大きさのダイヤがキラキラと輝いている。
さらに、まだ真夏でもないのに露出度高めなノースリーブ姿で、酔っ払っているのか少し頬が赤い。年齢は40歳くらいだろうか。
「そっか、じゃあみんな平成生まれなのね!…よし、一緒に飲もう!シャンパン、私の奢りだからどうぞ。はいカンパ~イ」
私たちとあまりにも違うテンションに、一瞬面食らう。
お酒のCMを担当したこともあるので、そのシャンパンが1本数万円するものだと、すぐにわかった。けれどまるで1,000円程度のボトルを開けているかのように、どんどん飲み干されていく。
初めて見るバブリーな光景に、私たち3人は圧倒されっぱなしだった。
「だ、大丈夫ですか?私たちお邪魔していいんでしょうか…」
「何を言ってるのよ、出会いもご縁だから。気にせず、とりあえず楽しく飲もう!!」
いつの間にか、亜希さんと名乗るその女性のペースにすっかり飲み込まれていた。気づけば彼女の友人も集まってきて、さらに盛り上がっている。
「毎日、こんなに華やかなんですか?」
「大人数のほうが楽しいでしょ?…ってチーム平成ガールズ、ちゃんと飲んでる?」
変なネーミングを思いつくのも、昭和世代の特徴なのだろうか。こうして豪快に飲み続ける亜希さんたち。
「はーい、もう1本ボトル入れちゃいます」
「いいね〜!最高」
でもなんだかみんな楽しそうで、そして何より幸せそうだった。しかし気づけば23時を過ぎていて、遥が慌てて帰り支度を始める。
「やばっ、もうこんな時間だ。私、終電もあるしそろそろ帰らないと」
けれどもその言葉を聞いた瞬間。亜希さんが、隣にいた男性に何か耳打ちをしだしたのだ。
「ちょっと大ちゃん。タクチケ、彼女に渡してあげてよ」
― タクチケ!!
仕事の場で見たことはあるけれど、飲みの場で配っている人が本当に存在するなんて…。
「わ、悪いので大丈夫です」
「いいのいいの。大ちゃん、お金余ってるし。はいどうぞ」
こうして私たちはこの日、初めて会う亜希さんという女性のご好意によって、深夜2時までお酒を飲んだのだ。
「葵、こんな世界があるんだね…」
「映画みたいだよね」
「でもみんな、楽しそうだね」
お酒を飲んで酔っ払うなんてカッコ悪いし、二日酔いになったら最悪だ。仕事の効率が下がる。そもそも、お金を払って二日酔いになる意味がわからない。
でも今日は、とことん飲んでもいいのかなと初めて思えた気がする。
「じゃあ、私は帰るね。またすぐに飲もうね〜!」
深夜2時。見たこともない色のHERMESのケリー25を持ち、待たせていた車に颯爽と乗り込んだ亜希さん。まるでおとぎ話に出てくるプリンセスのようだった。
その光景が忘れられなかった私は、帰宅してからも高揚感が抑えきれなかったのだ。
― 私、本当にこのままでいいのかな?あそこまでギラギラしてなくてもいいけど、華やかな世界って楽しい!
気がつけば、すっかりあの世界の虜になっていた私たち。
そしてこの日以来、私たち3人の中で確実に何かが変わっていったのである。
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この記事へのコメント
何の連載をしたいのか今イチ分からなかった。
たまに平成生まれと昭和生まれをやたらと区切ろうとする話とかありますが、違いがあるとしたらSNSの使い方くらいじゃないですかね。
金銭感覚に関してそこまで...続きを見るズレているとも思えないのですが。