2022.05.12
ハイスぺでも、お断りします! Vol.2その日の帰宅後。
シャワーを浴びてベッドに入った私は、スマホの画面をじっと見つめていた。
和也は、半年前にWEBメディアの編集長に就任したと言っていた。ライターが書いた記事の最終チェックをしたり、自分でもたまに寄稿したりしているらしい。
そこまで言っておいて、媒体名や執筆した記事を隠したがるのはなぜだろう…?
― ちょっとエッチな記事を書いてる…とか?いやいや、それでも別にいいんだけど、何か…引っかかるんだよね。
こういう時の嫌な予感は、ほぼ的中する。それでも、私は検索する指先を止めることができなかった。
彼が勤める出版社名と、その後に『WEBメディア』と検索エンジンに入力すると、10余りの媒体名が出てきた。
そこから『ガジェット系』という言葉を頼りに、2つの媒体に的を絞る。
― あっ!これっぽい!
そう思って開いてみたのは、いかにも男性が好みそうなOA機器やキャンプ・アウトドア用品などがズラリと並ぶ媒体だった。
ただ、画面をスクロールしていっても、どれも隠す理由なんてない記事ばかりなのだ。ますます、頭の中が「?」でいっぱいになる。
すると…3日前に配信された記事の中に、私はとんでもないものを見つけてしまった。
『婚活専用マッチングアプリのリアル!独身・アラサー男が潜入、実録体験記』
― な、何これ…。
不定期に更新されるこの連載は、半年前に始まっていた。
『マッチングアプリで出会った相手との結婚…。僕の中では、とても考えられないことだ。だが、もし、こういった出会いの形がこれからのスタンダードになるのだとしたら…』
冒頭から、マッチングアプリに対する不信感がつづられたその記事を読んでいくと、登録してから出会った女性たちとのエピソードが書かれていた。
私たちが出会った3ヶ月前にさかのぼってみると、『会社受付・Mさん』という見出しも見つかった。
『4番目に出会ったのは、Mさん。僕が“いいね”をすると、食い気味に“いいね返し”がきてマッチングした…』
多少脚色されている部分はあるが、デートの場所や会話の内容からして、私とのエピソードに間違いない。会っているときにスマホをいじっていたのは、シチュエーションや話したことをメモしていたのだろうか。
― これ、どういうことっ!あり得ないっ!!何か、自分がモテるみたいな、上から目線なところも気に入らないんだけど…。
すでに深夜2時を過ぎているというのに、激しい怒りがこみ上げてきた。私はベッドから這い出し、すべての記事にじっくりと目を通したのだった。
◆
翌日。
大事な話があると言って和也のことを呼び出すと、冷めた口調で問い詰めた。
「これを書いてるのって、和也さん?」
スマホ画面に例の記事を表示させて、彼に見せる。
「いや、え、ちがっ…うよ」
明らかに動揺している和也に向かって、もう1度聞く。
「違うの?」
すると、少しの沈黙のあと。和也は、深々と頭を下げながら謝罪した。
はじめは、就任したばかりの媒体のアクセス数を上げるために書き始めた連載だったが、今は本気で私と付き合っていると言うのだ。
「ごめん、芽衣ちゃん。本当に申し訳ない!もう君とのことは書かないし、この連載も終わりにするから」
幸いにも記事は匿名で書かれているし、私のことを特定できる確かな要素もない。だけど、真剣に婚活をしていて、素敵な相手と出会えたと喜んでいた私やほかの女性たちにとって、和也の軽率な行動も、この記事も許しがたい事実に変わりない。
私欲のためにマッチングアプリを利用して、人を傷つけた罪は重い。
― そもそもこういうのって、相手に許可を取らずに書いてもいいの?ううん、どっちにしてもやっぱり許せない!
「和也さん、私と別れてください」
「ちょっと待って、僕は本当にっ…」
「私、真剣だったのに…。こんなふうに勝手にふたりのことを晒されてすごく悲しい。だけど、別れた後にこれだけは約束してくれたら、大ごとにするつもりはないから」
◆
数日後。
和也:記事、削除しました。本当にごめんなさい。それからこれ、例の…。
和也からのLINEに添付されていたURLを開くと、最新の記事が出てきた。
そこには、アプリを始めてから70人近くに“いいね”をしたけれど、実際にマッチングしたのは私を含めて4人だけだったこと。
さらに、初めてマッチングした相手からは、メッセージのやり取りの最中にフェードアウトされていたこと。
2人目の相手には、デートの約束をしたものの、待ち合わせ直前にドタキャンされてしまったこと。
3人目の相手とは、デートをしてみるも、数日後に音信不通になってしまったことなど、これまでの記事では触れられていなかった部分が赤裸々につづられていた。
私が彼に突きつけた条件は、すべての記事の削除。
それと、どこか自分に都合よく、美化された記事にイラッとしていた私は、うまくいったことを書くよりも、失敗談のほうが読者は読みたがるんじゃないかというアドバイスまでしたのだった。
実際にその記事を読んで、これだけうまくいかなくてもめげない人もいるんだからと謎に励まされた自分もいる。
それにしても、一番最初に出会ったのが、彼のような人物とは…。
そして、そんな思いを胸に抱えつつも、“結婚”という目標に向かってふたたびマッチングアプリを開く勇ましい私がそこにいた。
▶前回:「今どのくらい貯金してる?」彼氏の本性が現れた交際3ヶ月目の出来事
▶NEXT:5月19日 木曜更新予定
意外な場所での婚活で出会った彼は、“アレ”が下がることを異常に恐れる人だった!?
婚活アプリ、お店は恵比寿、スマホいじってばかり 等々。
それに、どこがハイスペ?って男が出てくるし、正直結婚出来ない私たち連載の方が面白い。
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