2022.05.11
こんな僕のファム・ファタル Vol.4「マイ、さん…」
「こんばんは。偶然ですね」
白いシャツに黒いタイトスカートの彼女。
会社帰りなのだろうか――しかし、明人に微笑むだけで、あっさりとすぐ去っていった。
彼女の肩透かし以上に驚いたのは、身長180cmはあるだろう、高級感あるスーツを着た男を背後に2人従えていたことだ。マイの小柄な体型もあり、まるで少し前に流行した芸人ユニットのようだった。
― あの男たちは…?withBかよ…。
なぜか彼らの存在が気になってしまった。マイの反応を楽しむためにこの店を選んだはずだったが、自分の方が動揺してしまうとは。
明人の心中をさらに刺激するかのごとく、少し離れた席から件のwithBがこちらのテーブルをじっと見ている。
― そうか、恭香ちゃんがいるから…。
明人の心に別の緊張が走る。
彼らはお互いひじを突き合わせて、何か相談をしているようだった。
「あの…」
― 早く店から退散しよう…。
入れたばかりのボトルワインを片付けようとピッチを上げ飲んでいると、彼らにけしかけられたのか、マイが明人たちに近づいてきた。
「友達が…大学の同級生なんですけど、おふたりとご同席したいと言っておりまして。お邪魔じゃなければお食事ご一緒しませんか」
もちろん明人は断ろうとしたが、恭香はあっさりと答えたのだった。
「私は、大丈夫ですよ。明人さんは?」
「え、あ、うん…」
結局、席を移動せざるを得なかった。
◆
一同は大きめの丸いテーブルに移動する。
明人は恭香をガードするように席を陣取り、マイを彼女の隣に座らせた。だが意外にも、マイの友人だという2人は本当に明人に興味を持っていたようだった。
「高見堂社長、お名前はよく耳にしていました」
実は、withBは、明人と同じく会社経営者なのだという。
ECサイトをいくつも運営する会社のトップの徳山と、バイオテクノロジーの研究開発を主な事業としたベンチャーの社長という杉本。2人は恐縮しながらも気さくに明人を受け入れる。
「いつかお話したいと思っていました。まさかこんなところで会えるとは」
「いやいや…」
明人が今トップに立っている会社の前身は、かつて一時代を築いたITベンチャーだった。
だが、全盛期に当時の社長の薬物使用と脱税でどん底に落ち、残った数人の社員とアルバイトで何とか存続。事業譲渡や親会社変更などを経て再び独立し、現在はやっと軌道にのっている状態だ。
IT業界では珍しく、泥船に残り続け、叩き上げで社長になったということもあり、実は明人の名前は経営者界隈では有名なのだ。
彼らの賛辞に得意げになりながらも、明人はマイを冷ややかな目で見る。
― こいつ、社長狙いなだけだったんだな。
マイは恭香と楽しげなお喋りの真っ最中。初対面で意気投合した模様だ。しばらく男3人の硬い話で、ほったらかしにしていたから仕方ない。
明人は、このままマイと恭香が適当に韓国やスイーツなどの話をずっとしていてほしいと心から願った。高スぺックのイケメンと、恭香を近づけさせるわけにはいかないからだ。
「さすがマイさんの人脈は僕らも見習いたいよね」
「フットワークとバイタリティは、僕の知る経営者の中で1番だよ」
会話の中で時折挟まれる、マイをたたえる言葉に引っかかった。
「ん?経営者って」
「彼女の会社、勢いすごいですよね。在学中に起業した中でも現時点では1番大きいんじゃないかな」
明人はさも知っていたかのように頷いたが、内心では非常に動揺していた。
― え、彼女が経営者…?
そういえば、マイは彼らと大学の同級生だと言っていた。明人は一抹の不安をおぼえながら、恐る恐る尋ねる。
「あの、みなさん、大学ってどちらでしたっけ」
「あ、東京大学です」
明人はどこから発せられたのか不明な、イルカのごとき声を店内に響かせる。
マイも恭香も、何事かという表情で明人を見た。
東京大学―。
明人が中学の時から憧れながらも、現役時代の受験で落ち、早稲田で仮面浪人を続けたが結局合格できなかったエリートのシンボル。
「へ、へぇ…東大、ですか。マイさんも…?」
取り繕い、平然を装う明人。
マイは困ったような顔で頭を下げた。
黙っていたことを申し訳ないと思っているのだろうか。
その行動は、明人の繊細な部分をさらに刺激したのだった。
▶前回:「僕が君を格安店に連れていった理由わかるよね?」デートの帰りに男から脈無し発言された女は…
▶1話目はこちら:年収5,000万のこじらせ男が、アプリで出会った31歳のさえない女に翻弄され…
▶Next:5月18日 水曜更新予定
マイが自分よりハイスペと知った明人。だがなぜか彼女は明人に…
恭香は相当退屈だったから、マイ達の同席を快諾したんだね。
て言うか仕事放置してデート決めて一緒に来た恭香放置して何やってるの。
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