籠のなかの妻 Vol.2

「10万円!?」夫から提示された生活費に妻は絶句。足りないと嘆く彼女に、夫が差し出したものは…

「じゃ、行ってくるよ」

雄二はそう言いながら、sacaiの買ったばかりのスニーカーを履き、パンツのバックポケットにiPhoneを突っ込むと、家を出て行った。

パタンと玄関のドアが閉まるや、優衣は大きなため息をついた。

― 今日は何して過ごそう…。

原宿に引っ越して来てから、もう2週間が経つ。

最初の一週間は引っ越しの片付けや、役所での手続きなどであっという間に過ぎていった。それが終わると、時間を持て余すようになり、仕事をしていた時とは生活がガラッと変わってしまったのだ。

今は11月。息子の雄斗は幼稚園に入園できる来年の4月まで預けるところがない。

幼稚園が始まるまで、平日の日中は優衣と雄斗、2人きりの毎日が続くことになる。


「ママー、公園で遊びたい!」

食洗機に朝食の皿をセットしたところで、優衣の足元に雄斗がまとわりついてきた。

「よし!じゃあ、今日は近くの公園に行ってみようか」

優衣は、Googleマップで近所の公園を探し、雄斗と2人出かけてみることにした。



22時。

「ただいまー」

会食を終えた雄二が帰宅した。

優衣が玄関に出迎えると、着ていた上着を脱いで渡し、そのままリビング向かう。上着を片付けた優衣がリビングに戻ると、雄二は珍しく自分で出したビールの缶を、プシュと音を立てて開けたところだった。

「おかえりなさい。昼間、雄斗と出かけたんだけど、青山通りからちょっと入ったところに公園を見つけたの」

雄斗を寝かしつけた後、優衣は帰宅した夫に1日の報告をするのが日課のようになっていた。

「へぇ、表参道にも公園があるんだな」

雄二は、優衣の方に向き直ることもせず、スマホを見ながら適当に相づちを打っている。

「うん。それに、私たちのほかにも公園で遊んでいた親子がいたの。雄斗も久しぶりに同じくらいの年の子と少し遊ぶことができて、嬉しそうだったわ」

雄斗にせがまれて公園に出かけたことで、優衣は初めて知り合いができた。

南青山に住んでいる、恵さんという雄斗の一つ下の男の子のママだ。

彼女から気さくに声をかけられ、子どもを遊ばせながら立ち話をするうちに仲良くなり、なんとなくLINEを交換した。

恵さんはモンクレールの薄手のダウンを羽織り、背が高く、上品で華のある人だ。

彼女によると、この辺りの未就園児は習い事やプリスクールに通う子が多いという。

近所の体操教室や英会話、スイミングスクールなど、雄斗ぐらいの子どもが通える習い事を一通り教えてもらうことができた。

この日の公園遊びは、優衣にとっても思いがけず大きな収穫になったのだ。

「雄斗にも習い事をさせたいな。友達もできるし、それに幼稚園入園まであと半年弱あるでしょ?」

優衣の話は耳に入っていないのか、雄二は動画を見ながらニヤニヤと笑っている。

「ねえ、聞いてる?」

「あぁ、聞いてるよ。それで、その人んちは何習ってんの?同じでいいんじゃない?」

雄二の興味なさそうな口ぶりに、優衣は思わずイラっとする。

「じゃあ明日、申し込むね。スイミングと体操」

そう言って優衣がこの話を終わりにしようとすると、雄二がいきなり顔を上げた。

「で、それいくら?」

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