絶食系女子 Vol.4

4年間彼氏がいない29歳美女。20万かけて婚活を始めてみたものの…

『推し活』卒業…?


私は、友人の紹介で結婚相談所に登録。初期費用だけで20万近くかかることに驚いたが、もう使いどころもないからと一気に振り込んだ。

プロフィールを提出するとあっという間に何人もの男性を紹介され、次々にお見合いがセッティングされた。

みんな口をそろえて「真剣交際をしたい」と言ってきてくれたけれど、誰とデートしても心がまったくときめかず、結局全員お断りしてしまった。

そして、さっくんの引退発表から3ヶ月後。悠月咲斗の卒業ライブ当日がやってきてしまった。

コロナの影響で完全配信ライブになってしまったが、ライブ後には、メンバーと1対1で会話できるオンライン特典会が実施されることとなった。

その特典会のために午前中は美容院へ行き、今日のために買ったクロエのワンピースに袖を通す。ソファに浅く腰掛け、泣きそうな気持ちで配信アプリを立ち上げた。

いよいよ、最後のライブが幕を開ける。

私はフレアのスカートをぎゅっと握り、固唾を飲んで画面を見つめた。


私は、私らしく生きる


2時間にわたるライブは、今までのワンマンライブの中で最高ともいえるクオリティーだった。悠月咲斗を超えるアイドルは現れないと、確信した卒業ライブだった。

特典会が始まる前に急いでメイクを直し、泣き腫らした顔をごまかす。

自分の時間になり、事前に送られてきたURLにアクセスすると、少しの待機時間の後にさっくんが現れた。

『やほ、瑞希ちゃん』

与えられた時間は2分間。何か話さなければあっという間に終わってしまうのに、いざ、さっくんを目の前にすると涙が溢れて何も出てこない。

『瑞希ちゃんは、泣き顔も可愛いね』

さっくんの優しい声に、感情がせきを切って溢れ出した。

「……私、やっぱりさっくんがいないと無理だよ。さっくんを忘れようと思って婚活までしたのに、全然誰のことも好きになれない」

本当はこんなことを言いたかったわけじゃない。「さっくんなら素敵な保育士さんになれるよ」とか「健康に気を付けて頑張ってね」と、ポジティブな言葉をかけてあげたかったのに。

いつまでもぐずる私に対し、さっくんは少しの間をおいてから口を開いた。

『瑞希ちゃんは、アイドルのファンをやってるの楽しい?』

「え、そんなの……楽しいに決まってるよ」

私が答えると、さっくんはにこっと笑って話を続ける。

『じゃあ、無理してアイドルのファンをやめる必要ないと思うよ。僕がこんなこと言うのも微妙だけど、きっとまたすぐ魅力的なアイドルが現れるから』

「……さっくんじゃなきゃ嫌だよ」

『瑞希ちゃん』

画面越しに、さっくんが私の頭をなでるような仕草を見せる。私が落ち込んでいるとき、彼はいつもこうして励ましてくれたことを思い出した。

『僕、今まで瑞希ちゃんにたくさん支えてもらったから、今日は僕が瑞希ちゃんの背中を押させて。――瑞希ちゃんは瑞希ちゃんらしく、幸せになってね』

私が何か言おうとした瞬間、終了時間が来て通信がぷつりと切れてしまった。

― ……終わった。これでもう、さっくんに会えないんだ。

私はソファに身体を預け、白い天井を見上げた。

― たくさん支えてもらったのは、私のほうだよ。

この5年間、どんなにつらいことがあっても、さっくんを思えば頑張れた。彼は私の生きがいだった。

でも、彼は新しい人生を歩み始めた。いつまでも、過去の彼にしがみついてはいられない。

私も、新しい人生のスタートを切らなければ。

“瑞希ちゃんらしく、幸せになってね”

私はおもむろにスマホを手に取り、結婚相談所のエージェントに解約の連絡を入れた。

「……絶対、さっくん以上の推しを見つけるから」

私はメンズ地下アイドルのライブ情報を探しながら、少しだけワクワクするのを感じていた。


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