絶食系女子 Vol.4

4年間彼氏がいない29歳美女。20万かけて婚活を始めてみたものの…

アイドルがいなかったら、何もない自分


翌日。

仕事を定時で上がり、帰路につく。

前職の多忙なIT企業のプランナーを辞め、今の飲料メーカーの事務職に転職を決めたのも、さっくんに会う時間を確保したかったから。

仕事だって、さっくんのライブやイベントに通うお金が必要だからやっているようなもので、彼がいなくなってしまったら、私の人生は空っぽだ。

『もしもし。瑞希、大丈夫?』

「急にごめんね。大丈夫…ではないかも」

耐えきれず、友人に電話をかける。昨日散々泣いたけれど、やっぱりまだつらい。

さっくんはユニットを卒業するだけでなく、芸能界も引退してしまう。それは、もう二度と彼に会えないことを意味している。

ふと、鏡台に映る自分と目が合った。この艶やかな髪は、さっくんが特典会で褒めてくれた日から、より一層大切にケアしてきた賜物だ。

年齢不相応な可愛い服を着て、ピンク系でまとめたメイクをしているのは、さっくんの好きな女の子のタイプが“お人形みたいな子”だから。

さっくんのためにあつらえたような自分を見て、再びむなしさが押し寄せる。

「さっくんがいなくなったら、私、何もないよ……」

震える声で話す私に対し、友人は諭すような、でも少しだけ皮肉るような口調で言った。

『……でもさ、瑞希はいいよ。可愛いんだから。すぐに彼氏できるよ』


「……え?」

予想外の言葉に驚く。

彼女とは大学時代の友人で、さっくんと出会うよりも前から一緒に色んなアイドルを追いかけてきた。

私は、25歳くらいまでは、何度か彼氏を作ったこともある。でも、結局アイドルよりも好きになれず、別れてきた。

彼女も似た境遇で、お互いに「現実の男なんて…」と言っていたのに。

『私さ、いま婚活してるんだ』

友人が婚活していることに驚いたが、彼女の深刻そうな声色に二の句が継げなかった。

『親から、結婚しないでふらふらしてるなら実家に戻ってこいって言われちゃってさ。今の職場でやっと昇進もできそうなのに。私は東京で頑張りたいから、思い切って結婚相談所に登録してみたんだけど……』

なかなか思うようにいかなくてさ、と自嘲的に笑う彼女。

『瑞希と違って、私は見た目も平凡だし、アイドルがいなくなったら何もないんだよ』

彼女の言葉に胸が痛む。

考えてみれば、自分の親ももう若くはない。私は一人っ子だし、孫の顔を見せて安心させたいという気持ちが全くないわけではない。

「婚活、か……」

飽き性だった私が初めて5年推したアイドル、悠月咲斗が卒業する。

他にも気に入っているアイドルはちらほらいるが、今後、さっくん以上に好きになれる人なんてきっといない。

私のアイドルオタク人生も、いよいよ潮時なのかもしれない。

「私も推し活卒業して、婚活を始めてみようかな……」

私の言葉に、友人は小さく笑った。

【絶食系女子】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo