ニュースな女 Vol.4

「キスまでしたのに…」それ以上進展しないことに悩む28歳女。彼女がとった大胆な行動とは

マサヒコさん訪問当日


午前中で在宅勤務を切り上げると、私は目白の自宅から池袋の西武百貨店に走った。

今半でステーキ肉を、生鮮食品売り場でビワや大粒のハマグリを無事入手してホッとする。その他の材料やチーズ、お酒も買い込んで、わき目も振らず一目散に家へ帰る。

仕事帰りのマサヒコさんの来訪予定時刻は、19時半。

一刻も早く、ハマグリの砂抜きに取り掛からなくてはならない。

塩水にハマグリを浸すと、私は次に、冷蔵庫のドアポケットで冷えていた緑茶やウーロン茶のペットボトルを野菜室の奥に隠した。

料亭を気取ってビワを出したはいいが、そこに添えるお茶がペットボトルから注いだものというのはいただけない。

普段から茶も沸かさない女と思われるのも困る。

私は料理がそう苦手ではないのだが、「お財布にも体にも優しいのに、料理しない人の気が知れない」という時期と、「花の独身、今贅沢しないでいつするの?外食も人生経験のうち」という時期が交互にやってくる。

料理というのは、一度習慣づくと、食材を買い足しながらわりと続くが、やらなくなったらぱたりと遠のいて、ご飯も炊かないしお茶すら入れなくなってしまうのだ。

現在「外食シーズン」を謳歌していた私の冷蔵庫には、生鮮食品がほぼ入っていなかった。もちろん、マサヒコさんにこんな冷蔵庫は見せられない。

そこで私は、卵やウィンナーなども買ってきた。彼が家に泊まり、朝食を作ることがあれば使えるアイテムでもある。

自然な減り具合を演出するために、ゆで卵をつくって、無理して2個食べた。


水回りの掃除を終えて、気が付くと時刻は15時になっていた。

― 少し疲れたし、コーヒーでも飲もうかな。

お湯を沸かしながら、ふとスマホを見るとサヤから何度も着信があったことに気がつき、かけ直す。

準備がだいたい整ったことを伝えると、彼女が早口で尋ねてきた。

「あのさ、この間今夜のためにスナイデル ホームのルームウェア買ったって言ってなかった?」

「うん、買ったよ」

「あれ、洗った?」

「え?洗ってないよ。だってまだ一度も着てないもん」

ダメダメ!とサヤは悲鳴を上げた。

「新しい服には特有の香りがあるもん。抱きしめられたら、絶対にバレるよ」

それはまずい。

今夜はあくまでも「押し切られて泊めることにした」というシナリオで進める予定なのだ。

シャワーなり、お風呂なりの後に着るであろうルームウェアをあらかじめ新品で用意しているなんて、やる気まんまんすぎる…。

「アズサの家、浴室乾燥機ついてたよね?今すぐ洗って乾かして。あと、スマホの予測変換と閲覧履歴は全て消しておくのよ!」

サヤは矢継ぎ早に指示を出すと、電話を切った。

クローゼットから肌触りのよいルームウェアを取り出す。桜のモチーフがとってもかわいい。

しかし、香り以前の問題で、ショップの袋に入ったままだしタグも取り忘れていた。

速やかにタグを切って、袋と一緒に捨てる。

ゴミ箱をのぞくと、さっきお肉などを買ったときのレシートも入っていた。印字されたレジの対応時刻は、マサヒコさんにとっては、私が働いているはずの時間。

コーヒーなんか飲んでいる場合ではなかった。すべて回収して、マンションのゴミ置き場に持っていくことにする。

だんだん、私がこれからしようとしているのは、恋愛なのか、完全犯罪なのか、わからなくなってきた。

また、言われたとおり、予測変換と閲覧履歴も削除した。

そういえば、「マサヒコさんが勤める会社・スペース・年収」で調べた記憶あり…。

今夜会話が盛り上がって、「明日は映画でも見に行かない?今どんなのやってるか調べてみようよ」と2人でスマホを覗き込んだときに、そんなものが出てきたら一巻の終わりだ。




19時過ぎになって、ようやくパジャマが乾いた。

ポテサラは作り終えたし、ほかの料理もあとは火を通すばかりだ。ビワの剥き方もばっちり予習した。これでやり残したことはないはず…。

「んぁーーー!」

ソファに倒れ込んで、大きく伸びをする。

いつになく片付いている部屋は快適だ。

しかし、私は疲れ果てていた。これからメインイベントだなんて、信じられない。

― このまま一人でビールを飲んで、だらだらしたいなぁ…。

そんな気持ちが湧きあがってくる。

旅行にしろ、デートにしろ、直前になって、突然「行きたくない」「一人になりたい」と思うのは、何でなんだろう?

時刻は19時25分。

そのままぼんやりしていたら、ピンポーンと鳴った。

インターフォンのモニターを見ると、マサヒコさんが立っている。

― そういえば、こんな顔していたなぁ…。

マサヒコさんの顔を見て、特にときめかない自分に焦る。「ハーイ!」と言いながら、オートロックの開錠ボタンを押した。

ほどなくして、玄関ドアのチャイムも鳴った。私は一瞬だけ目をつぶる。

準備は楽しかった。

だけど、この期に及んで、自分がマサヒコさんのことをそもそも好きなのか、という疑問にぶちあたっている。

しかし、今夜はもう始まってしまったのだ。

私は意を決して目を開け、玄関に向かう。

― あとは、なりゆきにまかせよう…。

そして私は今、ドアを開ける。


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