男女の賞味期限 Vol.6

理性と欲望で揺れる人妻。都合よく甘えていた男から仕掛けられた逆襲

薄れる罪悪感


「いえ…。私は不器用なので、サロンでやってもらっています」

すると義母は、コーラルピンクのネイルをじっと見つめながら、こう続けた。

「真希さんは、いつまでも綺麗で羨ましいわ。私なんて、夫のサポートと、翔一を育てることに忙しくて。

髪振り乱して世話していたのが懐かしいわ。大変だったけど、楽しくもあったわよ。

真希さんもそろそろ考えてみたらどうかしら」

「…」

この時真希は、呼び出された理由を悟った。おそらく義母は、そろそろ“女”でいるのは終わりにして、家庭に尽くす妻としての自覚を持ったらどうかと言いたいのだろう。

この前翔一が言っていたことと同じだ。

息子を愛する義母のこと。もしかしたら、翔一が愚痴をこぼしたのを聞きつけて、真希に言っておかなければと、呼び寄せたのかもしれない。

「え、ええ…」

愛想笑いを浮かべてその場しのぎの反応をするが、義母は逃すものですかと言わんばかりの表情で畳みかけてきた。

「何でも相談してちょうだいね。私、翔一と真希さんのお手伝いなら喜んでするわ。

そうなったら、この家も二世帯住宅に造り替えてもいいわね」

“子ども”について話していることは明らかだった。遠回しな言い方がまた、得体のしれぬプレッシャーを感じさせる。

「…はい」

頭を下げた真希は、義母がそう言いたくなるのも仕方ないと、少しだけ胸が痛んだ。

自分たち夫婦は、お互い仕事をバリバリこなすDINKSではない。

働く夫と支える妻という、言ってしまえば、少し古典的な夫婦の形だ。

結婚を決めた時、「専業主婦になって支えてほしい」という翔一の希望でこの形を選んだが、真希自身、何が何でも仕事を続けたいとも思っていなかったから、すんなりと受け入れられた。

それから3年。仕事をしているわけでもなく、ただただ恵まれた生活を享受する専業主婦。そんな女に求められること。

−分かってる…。

義母のプレッシャーは真希の心に重くのしかかった。


タクシーに乗り込むと、全身の力が一気に抜けた。シートに深く沈み、バッグからスマホを取り出す。

『なんか、今日は疲れた』

悠介にメッセージを打つ。最初こそドキドキしていたが、彼に送るのは、もはや女友達に送るのと同じくらい自然なことになっていた。

−分かってるけど。
......


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