貴女みたいに Vol.4

「たった一回の過ちで…?」恋も仕事も順調なはずの女に下された、ありえない決定

社会人になって以来、寝坊による遅刻なんてしたことがなかったためショックは大きい。

しかし逆に言えば、遅刻など普段の自分からは想像もできないと胸を張って言えるほど、日頃は真面目な仕事ぶりで周囲の信頼を得てきたはずだ。

たった一度の遅刻で失うものは少ないと信じたい。

―それでも、ちゃんと対応しなくちゃ。恵理ちゃんにお礼もしないと。

あまりのパニックとショックに、いつのまにか昨日の出来事と夜中の悪夢はどこかに吹き飛び、恵理に対する感謝の気持ちで、心が満たされていた。

そして大切なプレゼンは、恵理の機転と活躍で大成功したようだった。全てに立ち会った智樹が、休憩時間にラウンジでその様子を報告してくれた。

「恵理さん、立派だったよ。イベントでアナウンスしていた内容以上に勉強していたし、夏絵さんの新しい企画についても詳しかった。突っ込んだ質問にも答えてた」

資料は初見のはずなので不思議に思ったが、持ち前の機転と頭の良さで対応してくれたなら、それは本当に頼もしいことだ。

「よかった。恵理ちゃんのおかげで、ミスは挽回できそう」

「それどころか、プラスに転じたんじゃない?クライアントさんが、恵理さんもぜひチームにって言っていたし」

「そうね。私のアシスタントだし、そうしてもらうつもり」

「アシスタントじゃなくて、主力メンバーとしての誘いだよ。俺も賛成だな」

夏絵はただ、無言で頷いた。「まだ早い」「経験不足だ」そんな言葉が出そうになるが、違う意味に取られるのが怖い。なにしろ、自分の尻拭いをしてくれた恵理が評価されたのだ。夏絵がするべきことは、恵理に感謝し、状況を受け入れることだけだった。

「それにしても、夏絵さんが遅刻なんて珍しいね。オール明けでも一番乗りで出社するタイプなのに。そんなに飲みすぎたってわけでもなさそうだけど。恵理さんが酔いつぶれたから、こっちは早く切り上げたしね」

智樹は心配そうに、夏絵の顔を覗き込んだ。

「うん。なんか体調が悪いっていうか、まだ頭も痛いし、ぼーっとしちゃって。すごく体が重いんだよね。恵理ちゃんが家でたのも、全然気づかなかった。普段ちょっとした物音で起きるタイプなのに」

「ああ、睡眠薬飲んだときだけ、俺もそうなる。不眠気味でも、薬が効きすぎちゃうのが怖くてなかなか飲めないんだよな」

自分のエピソードを交えながら同意してくれた智樹の、“睡眠薬”という言葉がちくりと引っかかる。眠りが浅いタイプではあるが、夏絵には無縁のものだ。

どこか胸の奥につかえたものを感じながら、夏絵は遅れを取り返すように、資料に向かった。


「夏絵さん。ちょっと時間ある?」

デスクに座る夏絵に話しかけてきたのは、社長の大島遼一だ。社長室に来るように促すので、夏絵はそれに従った。

―今日の遅刻のことかな…。謝罪して、始末書書こう。

夏絵はそんなことを考えながら、胃の痛む思いで大島の後ろを歩く。

しか......


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