『夕食も美味しい!と言って、夫がしっかり完食してくれました♡』
『今日は記念日だったから、プレゼント買ってきてくれた~!』
そんなコメントとともに、夫から贈られたのであろうセリーヌの新作バッグを写した画像が投稿されていたのだ。みずきの幸せオーラがヒシヒシと伝わってくる。
―素敵だなあ。きっと旦那さんもカッコイイ人なんだろうな。
留依はため息をつくとInstagramの画面をそっと閉じ、再び仕事に取り掛かるのだった。
◆
井原みずきのオフライン「お義母さんと、比べないでよ…!」
「お疲れさま。ちょうどご飯、できたとこだよ」
「おっ、今日は何?腹減ってきた」
夫の雅也が仕事を終え、リビングに戻ってきたタイミングで、みずきは声をかける。すると彼は分厚いメガネを外し、中年太りで丸く膨らんだ腹を撫でながら、キッチンを覗いてきた。
「今夜はね、筑前煮とおひたし。和食がいいって言ってたでしょ」
Instagram用の写真を撮りながらそう言うと、雅也はまるで子どものような表情を浮かべて、嬉しそうに箸を取った。
「お、このおひたし美味しいね」
その言葉を聞いた瞬間、みずきはドキッとする。…実はおひたしの方は、スーパーで買ってきたお惣菜だったから。慌てて話題をそらす。
「ねえ!この筑前煮、ちょっと味付け変えてみたんだけど。…どう?」
「うん、美味い。俺やっぱり煮物好きだな。今日のは、母さんの味に近い気がする」
するとまたもや、みずきはドキッとしてしまった。
彼は時折、会話の中に「母さん」というワードを出すが、みずきは義母との関係があまり良好ではない。
―お義母さんと、比べないでよ…。
そんな心の中のつぶやきを振り払うように、口角を上げて微笑む。しかし次の瞬間、雅也の口から最も聞きたくない一言が飛び出したのだ。
「そういえば、母さんが今週末にうちを見に来たいって」
「えっ!?」
「まあ近所だから、ちょっとうちに寄って行く程度だと思うよ。特別なことはしなくていいからね」
―そういう問題じゃないんだって。ほんと、分かってないな。
義母が来る前に家中を掃除して、デカフェの紅茶と『ケンズカフェ東京』のガトーショコラを買ってこなければならない。
この2つがないと、彼女は途端に不機嫌になるのだ。そんなことを考えるだけで、憂鬱になってくる。
「そっか。一応、準備はしておくね」
それだけ言うと、みずきは本音をグッと飲み込んだ。
2人が住む家は、神楽坂にある低層タイプの高級賃貸マンション。物件自体は気に入っているが、実は最初から気になっていることがある。
雅也の実家が牛込柳町にあり、この家に決めたのも「実家に近ければ色々と便利だろう」という彼の一言がキッカケだったのだ。
1人息子であるせいか、母親から本当に大切にされている雅也。だからこそ、義母はみずきのことが気に入らないのではないかと、ついそんなことを考えてしまうのである。
この記事へのコメント
夫婦で楽しく過ごしてるんだから
過度に接触してこないでほしいわ…