彼のことが、好きで好きでたまらない。…だから私は、どこまでも追いかけるの。
好きすぎるせいで、何度も連絡してしまう。愛しいから、絶対に別れたくない。彼を離したくない。
こんな愛し方は異常だろうか…?だけど恋する女なら、誰だってそうなる可能性がある。
「私の方を振り向いて。ちゃんとあなたの、そばにいるから」
これは、愛しすぎたゆえに一歩を踏み間違えた女の物語。
―寝顔、カッコいいな。佐伯さんと、まさかこんな風になれるなんて夢みたい。
夏川仁美は、隣で眠る佐伯春樹の横顔を見つめる。
スッと通った鼻梁も長いまつ毛も、佐伯の全てが愛しく思えてきて、仁美はにんまりと微笑んだ。
佐伯は仁美にとって、なかなか手が届かない“憧れの会社の先輩”といった存在だった。
だから、そんな彼が自分の部屋で寝ていることが信じられず、自分の家であるはずなのに、なんだか別の人の部屋にいるような感覚がする。
カシウエアのブランケットを手繰り寄せながら、そんなことをぼんやりと考えていたそのとき、ふと彼が目を覚ました。
「仁美ちゃん、おはよう」
彼は慣れた手つきで優しく仁美の腰を抱き寄せると、左手で頭を撫でてくる。ゴツゴツとした男らしい手に髪を撫でられ、仁美は思わずうっとりとした表情になった。
「ねえ、佐伯さん」
仁美は佐伯に抱きしめられたまま、甘えたような声を出す。
「んー?」
「次、佐伯さんが大阪に来たときも、またこうやって会えるかなあ?」
佐伯の真似をするように、彼の柔らかい黒髪をそっと撫でながら、仁美は問いかける。
「…うん、会えるよ。毎回は無理かもしれないけどね」
佐伯がそう言った瞬間、仁美は目の前が真っ暗になったような気がした。
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