振り返れば、そこにいる Vol.1

「私のことアリじゃなかったの?」オトせたと思っていた男の態度が、翌朝になって急変したワケ

その日の夜。

佐伯と仁美、そして数名の同僚女子で、大阪・北新地の街に繰り出した。東京在住の佐伯は大阪のお店にも詳しくて、紳士的に振る舞う彼にさらにドキドキしてしまう。

そんな佐伯と急激に距離が縮まったのは、二軒目に訪れたバーでのことだった。

周囲の女子に気圧されて、一次会では佐伯とほとんど話せなかった仁美。そんな自分を気遣ってか、バーでは佐伯が仁美の隣に座ってきてくれたのだ。

「夏川さん、せっかく仕事の相談をしたいって誘ってくれたのに、全然話せなくってごめんね?」

薄暗いバーとはいえ、至近距離で佐伯に顔を覗き込まれ、仁美は緊張のあまり押し黙ってしまう。

オシャレな間接照明のおかげで、照れて赤い顔をしていることが彼にバレていなさそうなことが、せめてもの救いだと仁美は思った。

ひと通り仕事の話を終えた後、仁美はずっと気になっていた疑問を口にした。

「…そういえば佐伯さん。どうして私の名前だけ、ご存じだったんですか?」

大勢いる社員の中で、自分の名前だけを覚えていたことが、不思議でならなかったのだ。

「いや。以前の研修から、夏川さんとは本当によく目が合うなって思ってて。…正直、俺のタイプだったから気になって名簿見たんだよね」

…そう言って佐伯にジッと見つめられた瞬間、「もう逃げられない」と仁美は悟ったのだった。


仁美は、佐伯が帰った後の寝室でひとり、物思いにふける。

あの後、終電間近になって佐伯はホテルに戻ろうとしたが、仁美が「もう少し飲みたい」とこっそりお願いし、自宅に誘い込んだのだった。

昨日の食事でも、家に誘い込んでからも、自分のことを“アリ”だと思ってくれていたと思う。

佐伯だってそう捉えられてもおかしくない発言や行動をしていた。それなのに朝になって急に、その雰囲気が佐伯から消えていたのだ。

―やっぱり展開が早すぎたよね。それより実は彼女がいたりして。

仁美は頭の中でグルグルと考え、ひとりで勝手に落ち込む。そのとき、佐伯が帰り際に発した言葉をふと思い出した。

「まあでも、なるべく会えるようにするよ。仁美ちゃんすっごく綺麗だしね」

こういうタイプの男性は、ハマるとヤバいということは仁美も自覚している。

だけど佐伯と一晩を過ごして、もっともっと彼のことが好きになってしまったのだ。

「ここからもっとがんばって、彼に見合う女になろう…!」

そう自身に言い聞かせた仁美は、心の奥でひっそりと、佐伯への片思いを続ける決意をしていた。

…だが、数日後。仁美は重大なことに気付いてしまったのだ。

それは、佐伯のプライベートな連絡先を一切教えてもらえていなかったということ。普段は社用アドレスで事が足りていたから、そのことに気付くまで時間がかかってしまった。

しかもそれに気付いたのは、佐伯が東京本社に戻ってしまってから。

もしかして本当に「もう次はない」と思われていたのだろうか。そう考えると、仁美の中には急激に焦りが出てきた。

―佐伯さん、次はいつ大阪に来るんだろう?

このままでは本当に“一晩だけの関係”で終わってしまう。…そんなのは、絶対にイヤだ。

なんとしても佐伯とコンタクトを取りたいと思った仁美は、彼の社用アドレスにメールを送ってしまった。

パッと見ただけでは内容が分からないように、メールのはじめはビジネスライクな文章にしてカモフラージュさせて。

それなのに1週間経っても、佐伯から連絡が返ってくることはなかったのだった。


▶他にも:相性が良かったから…?交際前に一線を越えてしまった女に、男が本気になったワケ

▶︎NEXT:12月1日 火曜更新予定
メールが返ってこなくて不安になった仁美が、とった行動とは…?

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この記事へのコメント

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No Name
彼女はいないけど、妻がいる……。佐伯春樹はそんな男。
2020/11/24 05:2599+返信10件
No Name
いや。社内研修してくれてる先輩社員に、講義の後に彼女の有無とか聞かないから。大学生か?
2020/11/24 05:2299+返信9件
No Name
彼女はいないけど女房子供がいるとかねw
2020/11/24 05:2594返信1件
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