まさかの返事
「緊張するなあ」
プロポーズ当日。憲明は、いつもより早く目が覚めた。
いよいよ決戦の日。クルージング、スイートルームにキラキラの婚約指輪。
この1ヶ月準備を重ねてきた。
これ以上何がある?という豪華な演出だ。麻子を喜ばせる自信しかないが、いざ当日を迎えると、得体の知れない不安が憲明を襲ったのだ。
−いやいや。絶対大丈夫だって。
自分に言い聞かせながら、憲明は仕事の準備に取り掛かった。
“麻子、大丈夫?”
18時35分。
憲明は焦っていた。待ち合わせ時刻を過ぎているのに、麻子は現れないどころか連絡がつかないのだ。
クルーズ船の出航は、19時。ギリギリまで乗船可能とのことだが、この状況では間に合うのかということすら分からない。
まさか、ドタキャンだろうか。
憲明の脳裏に、ネガテイブなことが浮かんでいく。万一彼女が来ないなんてことがあったら、プロポーズは台無しだ。
どうしたら良いか分からず入口で立ち尽くしていると、スマホが鳴った。
「憲明、ごめんね。仕事が長引いちゃって。今出たから、あと10分くらいだと思う」
麻子の声に、ホッと心をなでおろす。ギリギリだが、出航時刻には間に合いそうだ。まったく、不安にさせないでくれよ。
彼女の到着を待ちながら、憲明はカバンの中の婚約指輪を確認する。
−デザートが終わった後、プライベートデッキに出て夜風にあたりながらプロポーズ…。
セリフは、ストレートに“結婚してください”…。
そんなイメージトレーニングをしていると、タクシーが目の前で止まった。
「ごめんね、憲明」
麻子が申し訳なさそうな顔で降りてきた。憲明は、その姿に目を奪われる。
ネイビーのワンピースに身を包んだ彼女の姿は神々しいほどに美しい。
憲明は、麻子の手を引いてクルージング船へと向かった。
「とっても素敵!本当にありがとう」
2人だけのために用意された貴賓室で、麻子はまず、憲明に感謝の気持ちを口にした。
彼女が喜ぶ姿に、憲明の頰も緩む。だが、気を抜いてはいけない。ここからが本番なのだ。
刻一刻とその時が近づく。憲明の心拍数も、徐々にドキドキ上がっていく。
メインの和牛が提供された時には、緊張はピークに達していて、せっかくの料理を前に、食欲も湧かないほどだった。
「ごちそうさまでした。とっても美味しかった」
全ての食事が提供され、茶菓子をつまみながらコーヒーを飲んでいた時。ついに憲明は動いた。
「ちょっと夜風にでもあたろうか」
柄にもないセリフで、麻子をデッキに誘い出す。
「なに、酔っちゃった?大丈夫?」
憎たらしくも、麻子は何も勘付いていないらしく、お水を差し出してくる始末だ。
「せっかく外に出られるんだし。夜景見ようよ」
なんとかデッキに麻子を連れ出すことに成功した憲明は、「ちょっと待ってて」と、指輪を取りに船内へと戻った。
「麻子」
うっとりと夜景を見つめる麻子の背後から近づき、声をかけた。
「なぁに?」
振り向いた彼女の前で、憲明は跪いた。そして婚約指輪の箱をパカっと開ける。
「僕と結婚してください」
「え…」
突然の出来事に驚いたのだろうか。麻子は小さな声で「どうしよう…」と呟き、少し苦しそうな表情を浮かべた。
「もう一回言う。僕と結婚してください」
早く彼女の薬指にこの指輪をはめたい。逸る気持ちを堪えて待っていた憲明だったが、彼女の返事は想像を絶するものだった。
「ごめんなさい。私、結婚出来ません」
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この記事へのコメント
一人よがりな演出を、周りにペラペラ話して、アホか。
お金に物言わせてるのもあるのかもしれないけど、結構自分の基準で準備とかしてるよね、ノリアキ。
なんか彼女振り回してそう。