たかが離婚、されど離婚 Vol.1

たかが離婚、されど離婚:「妻とは終わっているけれど…」同窓会で再会した女に、男が告げた衝撃的な話

「女性にアプローチされたくないから、正式には離婚しなくてもかまわないって言ってたけど、意味不明だよ。そんなにアプローチが嫌なら、離婚した後も既婚者のフリを続ければいいじゃん」

「…たしかに」

友梨の指摘を受け、将人はハッとしたような顔をした。

「たしかに、尾形さんの言うとおりだね。気づかなかった」

「ウソでしょ?気づかなかったの?」

知的でクールなくせに、たまにピントのずれた天然発言をするところは、14年ぶりに再会した今も変わっていないようだ。友梨は苛立ちを通り越して、呆れて笑ってしまう。

すると、あらたまって将人は言った。

「でもね…。別居した妻は、“正式に離婚しましょう”とも、“ちゃんとやり直しましょう”とも、言ってこないんだよ」

「奥さんの意思を聞いてないの?」

「うん。別居した後は、聞いてないまま1年が過ぎた」

そんなこと信じられない。ありえない。友梨は思わず叫びそうになるが、グッと堪えた。

「最近になって思うんだよね。夫婦っていろんな形があるから、俺たち夫婦は今の状態がちょうどいいのかもしれないって」

達観したように将人は言った。

―大友君と奥さんの間に、何があったのだろうか。

真相を尋ねたくなったが、それも堪えた。

たしかに夫婦には様々な形があり、離婚にもそれぞれの理由がある。本人が率先して話さないのであれば、聞くものではない。友梨もまた離婚したからこそ、そう思う。

しかしそれでも、これだけは伝えておきたいと思い、口を開いた。

「どんな形があるにせよ、奥さんとコミュニケーションを取ってないのは、良くないと思うよ。結婚って他人と向き合うことだって思うし、せめて奥さんがどういう気持ちで別居を続けてるのか、それぐらいは聞いたほうがいいんじゃないかな?」

将人は静かに黙って聞いている。しかし、心に響いている様子はなかった。

将人は“結婚そのもの”に諦めや絶望があるのかもしれない、と思った。


これ以上結婚について話していても、価値観の相違で言い合いになるだけな気がして、友梨は話題を変えた。

将人も同じことを思っていたようで、二人はリモート同窓会で再会した同級生たちのことや、共通の趣味であるはずの絵画について語った。高校のころ、友梨と将人は同じ美術部に所属していた。

「最近も絵、描いてるの?」

「仕事が忙しくて、ほとんど描いてないな。でも美術館とかアート展はよく行くけどね」

「あ、それ私もだ」

すれ違う結婚観の話題を乗り越えてしまえば、友梨と将人は高校時代に戻ったように会話が弾んだ。

またこれからも、機会があれば“同級生”として食事や酒を共にしよう。そう約束をして将人と解散した。

友梨は家までの道を歩きながら、ぼんやりと考える。

もう二度と結婚したくないから、別居していても、正式には離婚していない…。わけのわからぬことを将人が言うものだから、思わずヒートアップしてしまった。

しかし、そのおかげで自覚したこともある。

―私って本当に、心の底から再婚したいんだ…。

3年前に離婚した時は、自分がふたたび結婚したいと思うなんて予想もしなかった。それほどまでに別れは辛かった。

もう一度、ゼロからすべてをやり直すなんて。考えただけでも途方に暮れた。でも、今の恋人である駿と出会った。

―駿と出会って、駿が相手だから、私は再婚したいと思えたんだ。

駿への想いを再確認できただけでも、将人と会話した意味があった。なんなら将人に感謝したい気持ちすらある。

家に帰ると、駿はソファで寝落ちしていた。

深い眠りの中のようだ。わずかにイビキをかいていて、友梨が帰ってきたことに気づいていない。目覚める気配はない。

東京と札幌を頻繁に行き来しながら、セレクトショップ2店舗とECショップを切り盛りしている駿は、こうしてベッドまで辿り着けずに寝てしまうことが多かった。

ただ、いつもと違うことが1点だけあった。

ノートパソコンが開きっ放しだったのだ。ケーブルも外れている。このまま朝を迎えれば電源が落ちてしまうだろう。作業中のファイルも、もしかすると…。

友梨は物音を立てないよう静かに移動し、ノートパソコンを手に取ると、コンセントケーブルを探した。

と、その時だった。

聞き慣れた機械音が鳴る。

パソコンでLINEを受信した時の音だった。

ほとんど条件反射的に友梨はパソコン画面を覗いてしまった。そこに罪の意識などない。

しかし、それが他人のスマホを盗み見るのと同じ大罪であることは、駿に届いたLINEのメッセージで思い知らされた。

『今日、彼女さんちじゃなくて、ウチに泊まらない?急に会いたくなっちゃった』

友梨はその瞬間、頭が真っ白になった。


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この記事へのコメント

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No Name
自分の想いを再認識した直後にコレはキツイなぁ
2020/09/20 07:1991
No Name
再婚したくないから離婚しないといいつつ、
なぜ将人は、同級生の男性達には早々に『離婚した』と触れ回っていたのだろう? まだ既婚なんだし別に誰にも何も言わなきゃいいのに。
2020/09/20 06:1166返信3件
No Name
将人、離婚したらすぐ再婚をせまられるほどモテるような男性には見えないけど…笑 
結婚観は人それぞれ。異なる価値観の2人が今後どう関わるのかな。
2020/09/20 05:5262
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