「一人のひとと、生涯添い遂げたい」。結婚した男女であれば、皆がそう願うはずだ。
しかし現実とは残酷なもので、離婚する夫婦は世の中にごまんといる。だが人生でどんな経験をしたとしても、それを傷とするのかバネとするのかは、その人次第。
たかが離婚、されど離婚。
結婚という現実を熟知した男女が、傷を抱えながら幸せを探していくラブ・ストーリー。
「実はあの時、ちゃんと言えなかったけど…」
尾形友梨は、目の前に座る男がそう切り出すのを、無言で聞いていた。
「正式に離婚はしてなくて、妻とは別居中なんだ」
彼が続けた言葉にも、友梨はあくまで冷静に、ゆっくりとワイングラスを口に運ぶ。
これが“付き合ったばかりの恋人”の発言なら、手にしていたワインを相手に浴びせて無言で立ち去るところ。だが、目の前の男は“高校時代から知っている同級生”でしかない。
男の名前は、大友将人。現在、将人と友梨は32歳だ。
彼とは先日再会したばかりだが、今日はこうして、代々木公園近くの人気店『アヒルストア』で二人で食事をしている。
そこで将人が放った爆弾発言に、友梨は疑問を抱いていた。
白黒ハッキリつけたい性格の友梨には、離婚しないまま別居を続ける意味が分からないのだ。
「どうして離婚しないの?」
すると将人は、「まあ、いろいろ複雑でさ…」と答えた後で、悪びれる様子もなく言った。
「でも、この状態のままも悪くない。他の女性からのアプローチが面倒なんだ」
将人は、なおも平然と続ける。
「妻には離婚したいとは伝えたけど、まだ決着はついてない。だけどそのままにしているのは、実際に離婚したら他の女性たちから“私と再婚してほしい”って言われる気がして、それも面倒でさ…」
友梨は絶句する。何を言っているのだ、この男は。
「もう結婚なんて、懲り懲りなんだ…。尾形さんもバツイチなら、そう思うだろ?」
確かに彼の言うとおり、友梨もバツイチだ。しかし首を横に振って「申し訳ないけど、ぜんぜん分からない」と答えた。
「えっ?じゃあ尾形さんは、もう一度、結婚したいの?」
「結婚したい。私はすぐにでも、再婚したいくらい」
「俺は絶対にイヤだ。もう二度と結婚なんかしたくない」
将人は、語気を強めて言い切った。
―もういいや。面倒くさい。
友梨は口をつぐんだ。頑固な男と言い争っても仕方がない。そのことだけは結婚と離婚を経て、身に染みて理解していた。
「…でもどうして尾形さんは、再婚したいと思ってるの?」
この記事へのコメント
なぜ将人は、同級生の男性達には早々に『離婚した』と触れ回っていたのだろう? まだ既婚なんだし別に誰にも何も言わなきゃいいのに。
結婚観は人それぞれ。異なる価値観の2人が今後どう関わるのかな。