2020.09.20
たかが離婚、されど離婚 Vol.1友梨のもとに同窓会の知らせが届いたのは、ステイホーム真っ只中のことだった。
通っていた千葉県の進学校の同級生たちは、そのほとんどが仕事に追われる日々を送っていた。
そんな中、卒業から14年にして初めて開催されることになった同窓会は「ご時世がらみんな在宅だろうから、リモート飲み会にすれば簡単に集まれるだろう」という理由で、オンラインで開催された。
20人ほどが参加した会では、ほとんど既婚者で子供がいる者も多く、離婚経験者は友梨くらいだ。と、思っていたのだが…。
友梨がバツイチであることを告げると、男性陣が口々にこう言ったのだ。
「あれ?確か、将人もバツイチじゃなかったか?」
「そういえば、将人も離婚したんだっけ」
すると画面越しの将人が、「うん、実は…」と口ごもる。それを遮るように、男性陣たちはこんなことを言い出した。
「じゃあ、二人でデートすればいいじゃん」
既婚者ばかりの同級生たちは、まるで高校生のような軽さで囃し立てる。
友梨も将人もその時は適当に流したのだが、二人は最寄り駅が同じ代々木公園だったこともあり、ステイホーム期間が終わった頃を見計らい、仕事終わりに軽く飲む約束をした。
とはいえ、友梨としてはデートのつもりはない。家も近いし、久々に昔話にでも花を咲かせようかという気軽な気持ちだった。
◆
こうして二人は、会うことになった。
そして乾杯をしてから10分が過ぎたころ、将人は「みんなの前では本当のことを言いそびれたけど、実は正式に離婚はしていない」と友梨に告げたのだ。
さらには、他の女性からのアプローチをかわすためには、離婚していない状態を保つのも悪くない、などと呆れたことを言ってのけた。
―大友君とは、噛み合わないな。
かつての美術部員仲間と14年ぶりにじっくり話せることを楽しみにしていた自分が、バカらしく思えてくる。すると将人が、沈黙を破って尋ねてきた。
「でもどうして尾形さんは、再婚したいと思ってるの?」
友梨は努めて淡々と答える。
「そりゃ、もちろん、結婚したい相手がいるから」
「あっ、彼氏がいるんだ?」
友梨が前夫と離婚したのは、3年前。
それから1年後、現在の恋人である駿と知り合った。友梨はホテルのコンシェルジュとして働いているが、宿泊客として駿が訪れたのがきっかけだ。
2つ年下の駿は生まれも育ちも札幌で、地元の専門学校を出たあとに始めたECショップが軌道に乗り、路面店を札幌にオープンさせていた。
いまや、ファッション感度の高い道産子なら誰もが知っているセレクトショップだ。
順調に成長した店は、東京にも進出することになり、駿は友梨が働くホテルを出張で何度か使っていた。
その何度目かの出張の時、駿は友梨へ連絡先を渡してきたのだ。
実は最初に見かけた時からずっと連絡先を渡す機会を探っていたらしい。一目惚れだったそうだ。
駿は、前夫と違って難しいことを考えないオープンな性格で、友梨とは波長が合った。
こうして食事に行く仲になり、あっという間に恋に落ちて、今に至る。
駿の店が東京進出することが正式に決まったのは、付き合いだして1年後。駿は札幌から拠点を移すことになり、そのまま自然な流れで友梨の家に住み始めた。
離婚してからすでに3年経っている。
友梨は当たり前のように再婚を望み、それは駿も同じだった。
◆
ところが、友梨から説明を聞いた将人は驚いた様子だった。
「へえ、結婚の約束もしてるのか。でも、もう一度結婚するってことは、もう一度離婚する可能性が出てくるってことだよ?バツ2になるかもしれないよ?」
将人は諭すように言うが、失礼な男だと友梨は思った。
「離婚するかもって思いながら結婚する人なんていないよ。それに私は、自分がバツイチってことを何とも思ってない。むしろ勲章ぐらいに思ってる」
苛立ちを隠そうともせずに、友梨は言い返す。
「だからいいの。私は彼と再婚する」
「そうかぁ…。俺には分からないや」
将人は首を傾げた。その仕草がどうにも癪に障り、きつい言い方をしてしまう。
「そもそもさ、大友君は言ってることがおかしいよ」
なぜ将人は、同級生の男性達には早々に『離婚した』と触れ回っていたのだろう? まだ既婚なんだし別に誰にも何も言わなきゃいいのに。
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