必要ですか? Vol.2

美容整形で顔を変えた女。辛い過去と決別するために「婚約者に見せる」と決めた物とは

「捨てたいものは、”整形前の過去”…ですか」

千恵美から過去を聞いたその翌日。

千恵美の自宅マンションへと向かう車の中で、雅矢は噛みしめるように呟いた。

美桜は、上品なフレンチネイルを施された爪をうっとりと見つめながら「はい。ずいぶんと、思いつめている様子でした」と答える。

そんな美桜に一瞥さえくれずに、雅矢は問いかける。

「…ご依頼人のお店はどうでしたか?」

「すごくすてきなお店でした。きれいでセンスも抜群で…とても千恵美さんの家が散らかっているとは思えないです」

そう興奮気味に美桜が言うと、心底うんざりしたように雅矢はため息をついた。

「お片づけを依頼=汚部屋暮らし、だと思ってるなら大間違いですよ」

「…家が片付いているのに整理収納アドバイザーを呼ぶ人なんているんですか?」

目的に着き、ゆっくりと車を止めた雅矢は、じろりと美桜の顔を見る。

「美桜さんは、僕のレッスンを通して一体何を学んだんですか?」

その迫力に気圧された美桜は、黙り込みうつむく。

美桜が雅矢に弟子入りを志願したあの日から1ヶ月。

「収納アドバイザーと依頼人」から「師匠と弟子」という関係性になった途端、雅矢の態度は驚くほど厳しく豹変したのだった。今ではすっかり、ドSな雅矢にこき使われてしまっている。

―依頼人の前じゃめちゃくちゃ優しいのに、これじゃ詐欺だよ。迫力すごすぎ…。

そんな事を思いながらふてくされる美桜だったが、心は裏腹に高揚している。

―僕は、厳しいですよ。覚悟してください。

弟子入りの時にそう言い放った、雅矢の鋭い視線とセクシーな微笑み。その瞬間を思い出すだけで、美桜の胸の奥はぎゅっと締め付けられるのだった。


招き入れられた千恵美の部屋は、雅矢の予想した通りとても綺麗に片付いていた。リビングやダイニングの居住スペースに手を入れる必要はなさそうだ。

しかし、行き届いた部屋の中で千恵美は憂鬱そうにうつむく。

「…どうしても開けられない部屋があって。そこに、私の過去が全て詰まっているんです。そこを片付けたいんです」

千恵美の言葉を聞き、雅矢は問いかけた。

「わかりました。よろしければその部屋を片付けたいと思ったきっかけを教えていただけませんか?」

千恵美は少し顔を赤らめて、ためらいがちに続ける。

「実は…近々結婚するんです。新居の購入を機に引っ越すので…」

ここまで言うと、千恵美は再び視線を落とした。

「そこが開かずの部屋になってしまった理由は、美容整形する以前の私の過去全てが詰まっているからです。子供の頃からの写真や、美容クリニックの資料、手術の経緯とか…。

私、過去の人間関係は全部切り捨てたんです。だから今、周囲に昔の私を知っている人はいません。全部捨ててしまえば良いのですけど、負の感情を全部閉じ込めた部屋なんです。1人じゃ、ドアを開けることすら怖くて…」

千恵美は「きちんと過去と向き合って、受け入れてから物を捨てなければ…。新しい人生なんて、始められないですよね」と、消え入るような声で言った。

すると雅矢は、きっぱり言い切ったのだ。

「そんなことありません」

この記事へのコメント

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No Name
散らかった部屋は、人を不幸にするか…

胸に刺さりました。
整理整頓が苦手なんだよなー。
決して汚部屋ではないけど。
2020/07/27 09:0250返信2件
No Name
独りで片付けられない時、こんなアドバイザーがいてくれたらいいかも。
お片付けってたいていはヨシっやるぞ!て感じで気合い入れてるはず笑(きれい好きや几帳面な人は別として)
心機一転片付けても月日経つとアップデートしなきゃだし。
私も片付けたい物結構あるわ➰😌
2020/07/27 07:5839
田舎者
雅矢さんの過去!気になるなあ。
来週が楽しみ。
2020/07/27 07:1032
No Name
これ読むたびに部屋のいらないもの捨てなきゃという気持ちになるのに、明日になったら忘れてるダメな自分…。
2020/07/27 10:1718返信1件
No Name
片付けって作業自体の煩わしいさもあるけど過去と向き合う作業だから、無意識に避けてしまうのかな。
片付けが苦にならない人は過去を肯定している幸せな人なのかも。
2020/07/27 09:509返信1件
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