「どうであれ、告白します」
「誠司が?エリート?今日の古文も私より下のクラスじゃなかった…?まあでも、楽しみにしてる」
クスクス笑いながら、背の高い誠司について歩く莉緒。表情は振り返らなくてもわかる。この3年間、飽きるほど見た顔だ。
―大学受かったら。合格発表のその足で、莉緒のところに行って、告白しよう。
誠司は握ったカバンにぎゅっと力を籠める。
しかし、その誓いが果たされることはなかった。
翌2014年春。莉緒は無事に第一志望の早稲田大学文学部に合格。
誠司は、早稲田大学政治経済学部、商学部ともに不合格となり、浪人生活に突入していた。
そしてここから二人のタイミングは、ことごとくずれていく。まるでボタンを掛け違えたみたいに。
思えば、浪人の夏も、そしてなんとか翌年入学した早稲田の政経1年の夏も、誠司にはろくな思い出がない。
最初の年、莉緒はキャンパスライフを楽しんでいるようだったし、勝手に気まずくなってなかば意地になった誠司は、ほとんど連絡もせずがむしゃらに勉強していた。
ようやく入学したと思ったら、莉緒は念願の交換留学でアメリカのオレゴンに1年間行ってしまった。
そして莉緒が3年生、誠司が2年生の夏。
莉緒には、彼氏がいた。
法学部の4年生で、法職課程をとっていることから、将来は検事か弁護士になるつもりらしい。なぜ知ってるかというと、サークルのミスターコンテストでファイナリストになったその男が、莉緒に公開告白をしたのだ。
「今日、ミスターに選ばれても選ばれなくても、どうであれこれから好きな子に告白します」
その視線の先には、はっきりと莉緒の姿があった。
恥ずかしそうにうつむく莉緒の頬は上気していて、これ以上見ていられなかった。誠司は足早にコンテストが行われていた広場を去った。
胸が痛かった。焦燥と嫉妬で焦げつきそうになりながら、それでも逃げるしかない自分に、心底うんざりした。
◆
そして2019年となった今。あの時の「約束のチケット」が、誠司の手の中にある。
もっともコネなんかあるはずもなく、がむしゃらに最大限のセッションに応募し、なんとか当選しただけではあるが。
きっと莉緒は、「俺が東京オリンピックに連れてってやる」なんて軽口を覚えてはいないだろう。
社会人になってからも、英語力を生かして外資系メーカーに就職した莉緒と、経済誌をメインとした出版社に入った誠司は、数か月に1度会社帰りに飲みに行くものの、休日に予定を合わせて会うことはなかった。
誠司にも短期間にせよ彼女がいることもあったし、莉緒もそのような気配があったが、お互いあまり立ち入らないようにしていた。
都会で、妙齢の男女が定期的に食事をするならば、付き合うか、あるいはまったく恋愛感情を排除した友情が必要だった。
莉緒が自分に恋していない以上、残る道は一つ。強固な友情に結ばれた腐れ縁の同級生を演じるまでだ。
「陸上の決勝だぜって言ったら、あいつ、ついてきてくれるかな…」
その時、自分はどうするのだろう?まるで映画やドラマみたいに、告げることができるのだろうか?7年もこじらせた片恋に、ピリオドを打てるのだろうか。
ずっと好きだったなんて。友情の擬態がすっかりと板についた今、そんなことが言えるのだろうか。
一生に一度かもしれない東京オリンピックの力を借りて。7年越しの約束を果たすという免罪符を利用して。
この記事へのコメント
こういうの、何か好き☺️✨
次話も楽しみ♡