今年も、夏がやってきた。
青い空、燦々と降り注ぐ太陽。そしてバケーションへの期待。夏はいつだって、人々の心を開放的にさせるのだ。
そんな季節だからこそ、あなたは“夏の恋”を経験したことはないだろうかー?
東京カレンダーのライター陣が1話読み切りでお届けする、サマー・ラブストーリー。
『東京2020オリンピック観戦チケットの抽選に申込いただきありがとうございます。
厳正なる抽選を行いました結果、チケットが[当選]いたしました。
当選内容の詳細は、東京2020公式チケット販売サイト内の「マイチケット」にて確認いただき、2019年07月02日火曜 23時59分までに購入手続をお済ませください』
「あ、あたった…しかも…男子陸上決勝だ!!」
誠司は、部屋のデスクで一人立ち上がり、声をあげた。
倍率最高レベルであろう陸上決勝。無効にでもなったら大変だ。急いでクレジットカードを出し、支払い手続きに進む。
どうしても。
誠司には、どうしても2020年東京オリンピックのチケットを、連番で2枚手に入れなくてはならない理由があったのだ。
◆
遡って、2013年9月。
高校3年生の河上誠司と、同級生の沢田莉緒は、並んで予備校に向かいながら、街角のモニターに「決定的瞬間」がリピートで映し出されるのを見ていた。
「すげ!ほんとに決まったんだな、東京オリンピック」
スポーツ全般、見るのもやるのも好きなサッカー部の誠司は、興奮気味に莉緒を見た。
夏に受験で引退したが、陸上部だった莉緒も、招致団が歓喜に包まれ、旗を振る映像を伸びあがって見ている。
誠司の目の前に立つ、頭ひとつ小さい莉緒の髪がさらさらと風に揺れ、腕に触れる。誠司はどきどきして視線を泳がせた。
「2020年て、私たちいくつ?25歳とか?えーっ、そんな先想像つかないなあ。でも絶対見に行きたい!チケットってとれるのかなあ、陸上決勝とか人気凄そうだなあ」
莉緒が日差しを手のひらで遮りながら、予備校のテキストがぎっしり入った重いサブバッグを肩にかけなおす。
誠司はそれをひょいと莉緒の肩から外して、自分の肩口で持つと、モニター前の人ごみから離れてすたすたと歩き始めた。
「んじゃ、俺さ、きっとそんときエリート君になってるから、チケットのひとつやふたつコネで取って、連れてってやるよ。約束」
この記事へのコメント
こういうの、何か好き☺️✨
次話も楽しみ♡