
憧憬を呼ぶ美食ホテルダイニング
選ぶべきは、ソファ席
上品な皿で下心を上手に隠して
つまりは桟敷席である。『チャイナブルー』でどこに座るべきかを、迷ってはいけない。レストランは劇場で、料理もゲストもサービスマンも皆役者。その優雅なさま、活況たる様子を一段高いところから眺める。それが桟敷席に許された特権だから。
本当のことを言えば、シェフ、アルバート・ツェ氏が作る広東料理を基礎としたモダン・チャイニーズは、上品であざとさがないから、下心に欠ける。それゆえに底意のための上等な隠れ蓑を演じて、あなたを助けてくれるだろう。ツェ氏は香港生まれ。香港とシンガポールで腕を磨き、'05年より現店で料理長を務める。そんな彼がめまぐるしく変わる日本の旬の食材でさえも、適切な調理法でもって皿にのせるのは、当たり前のこと。だって香港の広東料理は西洋を取り込んで、より高次に洗練されていったのだもの、日本に舞台を移したシェフの中にも、進取の気質は等しく潜んでいる。
寒い外気を振り払うがごとく、今夜は芯から身体を温める生姜が効いた料理を選ぼうか。くるりとふたりの背中を包むようなソファ席に、銘々皿で運ばれる野菜や海鮮に彩られた美しい料理たち。それに合わせるのは、客席上にあるセラーで出番を待つ上等のワインだろう。並んで座るうちに、演目が進むうちに、指が触れあっても、膝が接しても、それは演出のひとつ。公の場所にいながら親密さを深めても、誰にも文句は言われない。お膳立ては、完全無欠。この舞台を活かすも殺すも、あとはもちろん、あなた次第。