「さて、今日の特集は話題のキッチン便利グッズですが…その前に、なんと、わたくし野々村葵が『新人女性アナウンサー好感度ランキング』にランクインしたとの速報が入りました」
震える手を握りしめ、混乱する頭で出されたカンペを淡々と読みあげる。MCが「え、何位だったの?」と煽る声が、遠く聞こえた。
―あ~あ。やっぱり9位なのか。イヤだ。
スタッフがめくったカンペには、何度確認しても“9位”と書かれている。
「…んん~言わなきゃだめですか?」
それでもいまは、生放送中だ。平静を装い“猫なで声でMCを見つめる”というお決まりのパターンを繰り出す。
するとMCは「え〜じゃあ言わなくてもいいよぉ」とわざとらしく返し、それに女芸人がツッコんだ。
「いや、カンペに9位だって書いてあるじゃん!…野々村アナ、男ウケばっか狙って性格悪そう。絶対に女友達いないと思います、だってよ」
悲しいでも悔しいでもない、生々しい焦りが込み上げてくる。
「うわ、同期の神田エリサアナは10位?ふたりとも、順位低いな〜!」
MCが興奮した声で叫んだ瞬間、スタジオが急にざわついた。
―え、エリサとほとんど一緒…?
葵は咄嗟に、甘えたような声でMCに泣きつく。
「何これ…どうすればいいですかぁ〜」
「分かった!神田アナと同居でもしたら?女同士でも上手くやれるって世間に見せられるし、あんまりない形だから話題にもなるよ。いいじゃん、決まり決まり」
収録後。
楽屋に戻った葵は、鏡に映る自身の姿を見つめながら、ため息をついていた。
―私、いつの間にか男ウケ重視の甘えん坊キャラになってた。新人だし、その方がやりやすかったけど…もしかしてこのキャラ、損してる?
「神田アナと同居でもしたら?」放送中にMCが何気なく放った、あの言葉がリフレインする。
こうなったらもう、ピンチをチャンスに変えるしかない。
葵は椅子からスッと立ち上がると、マノロのヒールをカツカツと鳴らしながら、アナウンス室へと走った。
◆
「久しぶり」
楽屋を飛び出した葵は、迷うことなくエリサのデスクに向かった。
「久しぶりって、おかしいでしょ」
「オンエア以外で話すのって、久しぶりじゃない?」
口元はかろうじてニコリと微笑んでいるが、エリサを見つめる葵の眼差しは冷たい。
「何?」
エリサも眉ひとつ動かさず、葵を見つめる。
「話題になると思うの。エリサのためにもなるし」
「…え?なんのこと?」
「いいから。さっきの『ランチワイドショー』の私のコーナー、確認して」
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この記事へのコメント
似たようなキャラと、共感できないキャラばかりでマンネリ気味だったから。。