神田エリサ。葵と同期入社の、新人アナウンサー。そして葵がいま、もっとも負けたくない人。
栗色のストレートヘアに、はっきりとした目鼻立ち。日本人離れした造りの顔。その顔が、思わず笑ってしまいそうになるほどハッキリと曇った。
―こういう瞬間って、いちばん気分がいい。だって、ずっと比べられてきたんだから。
葵とエリサが出会ったのは、2014年。大学2年生の頃だった。
アナウンサーを目指す女子大生たちがこぞって通う、アナウンススクールでのこと。
「はじめまして。よろしくね!」
屈託のない笑顔で挨拶をする女子大生たち。その中でも2人は、ひときわ目立っていた。
「あの子たちは、キー局決まるんじゃない?」
スクール内での、嫉妬と羨望の混じった視線。それを2人はずっと浴びてきた。だからこそ、いつも意識しあってきたのだ。
就活が終われば会うこともないだろうと、特に仲良くする気は起きなかった。むしろお互いに「就活、失敗してくれればいいな」と強く思っていた。
だけどまさか、同期になるなんて。
葵とエリサが新人アナとしてデビューをして、10か月が経つ頃。
短いニュース番組への出演やナレーションの仕事が主で、まだ目立った活躍のないエリサ。一方の葵は、看板番組『ランチワイドショー』のアナウンサーとして活躍していた。
「はい、CMはいりまーす!」
『ランチワイドショー』の放送中。その掛け声と共に、スタッフが小走りで葵のもとへ駆け寄ってきた。
「野々村さん、あの…好感度ランキングの速報、伝えたらいいんじゃないかって話になってて」
「あ、もう出たんですね!」
今日は、大手ニュースサイトが毎年発表する「女性アナウンサー好感度ランキング」の発表日なのだ。
好感度がものを言う世界。「世間の声なんて気にするな」と言う人もいるだろうけど、やはりアナウンサーたちには無視できないランキングなのである。
「ちなみに私って、何位でした?」
「あの…9位です」
―え、ウソでしょ?先輩たちが新人の頃は、みんな5位以内にランクインしてたはずじゃない。
「あ、CM明けまで10秒前です!」
「ちょ、ちょっと!」
この記事へのコメント
似たようなキャラと、共感できないキャラばかりでマンネリ気味だったから。。