「新婚夫婦は、同じベッドで寝るべき」という固定観念にとらわれていないだろうか?
外資系コンサル会社で働く、相川亮(りょう)もその1人。
順調にキャリアを積みながら、大好きな女性との恋を実らせ、幸せな港区ライフを満喫中のはずだった。
しかし、誰もが羨む新婚生活のはずなのに、亮は一人、ある悩みを抱えていた。
―妻と同じベッドだと、満足に眠れない…!?
夜な夜な頭を抱える男がたどり着いた、最良のソリューションとは?
ーブブブ…。
目覚ましのバイブ音で、亮は重い瞼を開けた。
ぼんやりしたままスマホに目をやると、もうすぐいつもの起床時間だ。亮は、再び目を閉じてしまいたい衝動をぐっと抑えて、のそのそとベッドから起きだした。
「おはよー!」
妻の朋美が、カウンターキッチンから笑顔をのぞかせている。
亮と朋美は、3年前に出会った。コンサルタントとして働く亮が出向いた外資系化粧品会社に、朋美がいたことがきっかけだ。
亮の猛アタックが実り、めでたく半年前に結婚した2人は、ここ港区のマンションで暮らし始めた。
コンサルタントという職業柄、時期によって仕事は深夜に及ぶ。だから、たとえ帰宅が遅くなっても、最低限の睡眠時間が得られるように、会社からも近い家を選んだはずだったのだが…。
「あ、おはよ…」
ここ最近、亮はギリギリまで寝て、朝食はほとんど食べずに出勤する生活が続いている。
「昨日も遅かったよね。サラダ作りすぎちゃったから食べる?」
「うーん、いいや…」
心配そうに声をかけてくれる朋美に、感謝するべきだとはわかっている。だけど、亮はどこかイライラしてしまうのだった。
「そういえば、青山に新しくできたイタリアン、土曜日にランチの予約が取れたよ!ほら、前から亮が行きたいって言ってたでしょ?人気だから、なかなか取れなくて」
「ごめん、週末はゆっくり寝たいんだけど…」
亮は曖昧な返事をしながら、スマホに視線を落とす。
「ヤバイ。今日朝一でミーティングだった!遅刻するから先行くわ!」
亮の態度に不満そうな朋美を見ない振りをしながら、慌てて家を出たのだった。