「相川が遅刻寸前なんて、珍しいじゃん」
なんとか、ギリギリ会議室に駆け込み、ミーティングを乗り切った亮に、同じ部署の先輩が近づいてきた。
「すみません…スケジュール、見逃してました」
「間に合ったからよかったけどさ、お前最近ちょっと変じゃない?会議中もぼんやりしてるように見えたし、実際パフォーマンスも下がってるだろ」
何かあったのか?と心配してくれる先輩に、亮は思い切って相談してみることにした。
「実はここ最近、寝不足気味で…。できるだけ睡眠時間は取るようにはしてるんですけど、夜中に目が覚めちゃうことも多くて。なんだか熟睡できてないんですよ」
先輩に話をしながら、亮は昨夜のことを思い出していた。
深夜に帰宅すると、朋美はすでに寝ていた。彼女を起こさないように静かにベッドに潜り込んだはいいが、背中と首の居場所が定まらず、なかなか寝付けなかったのだ。
そのあとようやく眠りについたのも束の間、朋美の寝返りの度に振動が気になって、深い睡眠が得られなかったような気がする。
「もしかしてお前、新婚さんだからって奥さんと一緒のベッドで寝てる?」
「え、もちろんそうですけど…。先輩は違うんですか?」
確かに、亮と朋美は、1つのベッドで一緒に寝ている。
元々亮が独身の時に1人で大きめのベッドで寝るのに憧れて買ったものを、サイズ的には2人で寝られるからとそのまま買い替えず使っているのだ。
「実は俺も、前まで睡眠不足で悩んでて…。いろいろベッドを探していたら、このSerta(サータ)のペアリングツインに行き着いて、最近買い替えたんだ」
「ほら、これ」と、先輩はスマホの画面でベッドの写真を見せてきた。
「これって1台の大きなベッドなんですか?」
「そう見えるだろ?でもこれ、2つのシングルサイズのマットレスがペアリングパッドっていうものでぴったりつながっていて、その上から大きな1枚のシーツを被せてあるんだよ。これがペアリングツインっていうベッドスタイルなんだよ」
先輩は得意げに話を続ける。
「ちなみに、夫婦一緒のマットレスで寝ると熟睡できない人も結構いるらしいよ。で、その結果ストレスが溜まっていく」
確かに、と亮は頷いた。睡眠不足によるイライラで、今朝のようにぎくしゃくした空気になることも増えてきた。
「新婚なんだから、1つのベッドで寝ることが当たり前って思ってるかもしれないけど、マットレスをそれぞれ分けるのは、マジでおすすめだぞ。お前と奧さんじゃ体型も全然違うしマットレスの好みも違って当然だろ?うちはマットレスを分けたことで、相手の寝返りでお互いの睡眠の邪魔をすることもなくなったし。でも、1つのベッドのような距離感はあるから、寂しくも感じないし」
これから長い将来、幸せに暮らしたい新婚さんにこそ、このベッドはおすすめだと先輩は語る。
ランチタイムに早速、亮は、ベッドと睡眠について調べてみた。
先輩の言う通り、睡眠不足によって引き起こされる健康問題と、亮の不調は見事に一致していた。
―それに、睡眠不足が夫婦仲を悪くする原因になるっていう説まである…。これは、何とかしないと。
亮は、教えてもらったばかりのベッドについても検索した。すると、実際にベッドが見られるショールームが、渋谷にあることがわかったのだ。
その日の夜。めずらしく早く帰宅した亮は、朋美の顔を見るや否や、謝罪の言葉とともに頭を下げた。
「今朝は、せっかくご飯作ってくれたのに、ごめんな!レストランだって頑張って予約してくれたのに…」
「ううん、気にしてないよ。毎日疲れてるのは、私もわかってるから」
優しく許してくれる朋美の温かさに救われる。こんな幸せな日々をずっと続けていくために、亮は朋美にある提案をすることにした。
「ところで、朋美。俺たち、別々のベッドで寝ないか?」