【大ヒット御礼】煮沸 第二章 Vol.6

煮沸 第二章 最終話(拡大版):支配

【第二章 最終話までのあらすじ】


重度の多重人格障害を持つ連続殺人犯として、収監された橋上恵一。


刑法39条による心身喪失での減刑が予想される中、捜査官の工藤は ”殺人罪時効廃止” の法律を突き、回復期にあった ”まともな頃の恵一の犯罪” を追いかけ、予想通り殺人の痕跡を発見する。


これで恵一を死罪に持ち込めると考えた工藤であったが、恵一は工藤にある独白をする。
それは、「当時も多重人格は治っておらず、扶養者であった叔父・和明が、狂暴な君江人格を操り、自分に殺人をさせた」というものであった。

ところが、保身のため絶対に極刑にしたい警察上層部の黒岩警視は、捜査とは関係なく、精神鑑定医の井口に『恵一に異常性はなく、刑事責任能力あり』の鑑定を出すよう、名誉教授就任の妨害をネタに脅迫。井口もそれに応えてしまう。

恵一が「正常な精神状態の殺人者」であることを証明する謀略をめぐらす黒岩と井口。

井口は恵一との面会時に、死の危険を感じさせることで守護人格の大輔を呼び起こし、わざと自分に暴行をさせて重傷を負う。
そして黒岩はそれを「正式な鑑定中の恵一人格そのものの仕業」であると、嘘の情報をマスコミに発表する。

恵一の極刑網が狭まる中、捜査を進める工藤は「叔父・和明が恵一を操っていた」証拠となりうる、恵一の供述通りの死体を発見する。そして、その死体は高校時代に行方不明となった工藤の妹、真奈美の変わり果てた姿であった…。


恵一人格での犯行は実際には無いことを確信した工藤はやがて、和明が真奈美に保険金をかけていた事実を掴む。

ー和明を殺し、真奈美の復讐をする。

行方不明の和明を探し求める工藤は、全ての事件を恵一人格による犯行として閉じたい黒岩たち上層部の意に反し、暴走して捜査を進める。

一方、工藤の裏切りを察した黒岩は、自身が管轄する暴力団に、犯罪を不問にすることを条件に工藤の殺害を依頼。
工藤もまた、黒岩のその動きを察する。

命を狙われる立場となった工藤は、恵一に警察の思惑を伝え、最後の死地へと赴くのであった…


◆黒岩宅

「朝から、うなぎがおかずか。豪勢だな」

「昨日の謝恩会で包んでくれたのよ。要らないって言ったんだけど、もってけって。上だけ温めたから食べて」


妻の幸江が怪訝な顔で語る。

「でね、久美子がそのまま就職するって言うのよ。なんでしたっけ、ほら、あの子がお手伝いしている…」

「…インターンか?」

「そう、それ。そのインターンしてる、ネットなんとかって会社。もう、せっかくいい大学出てくれたんだから、どこか大きい銀行とか、お父さんみたいに公務員…」

「幸江。あの子の好きにやらせればいいじゃないか。もう我々の頃とは時代が違うんだ」

「あの子はよくても、社内結婚なんてして、あの子の旦那さんがインターネットの人なんかになったら、やだわ私。お父さんみたいに安定したお勤め人のところに嫁いで…」

「なあ幸江」

「はい?」

「…久美子が出て行ったら、どうする?」


「何です、急に」

「そろそろ考える頃だろ」


「…そうね…二人でゆっくりできればいいわ。贅沢なんていいから」

「毎日俺がいたら、かえって面倒かもしれんぞ」


ーコトッ。


幸江が茶碗をテーブルに置く。

「…恩返しさせてください。久美子がこうして社会人になるなんて、信じられないもの。あんな病気して、何度も大きな手術して。あなたが一生懸命働いてくれたおかげよ。
そうだ、就職決まったら執刀の先生たちにも、久美子と一緒に、ちゃんとご挨拶にいかなくちゃね」

黒岩が黙ってスーツを羽織る。


「そろそろ行く」

幸江が鞄を手渡す。

「…ねぇ、早いわね。時間が過ぎるのって、とっても」

「俺は随分長い時間に感じたよ」


幸江がほほ笑む。

「行ってらっしゃい」

◆駐車場


マンションの駐車場に黒岩が降りる。

鍵のボタンを押すと、数メートル先の車のライトが「こっちにいるよ」と2回点滅する。

ー 背の高い車に替えるか。

最近腰痛を訴えるようになった妻を思い出しながら、運転席に乗り込む。

僅かに曇った窓ガラスを見ながら、外の寒さから解放された体が弛緩するのを感じる。


エンジンボタンに手を伸ばしたとき、黒岩の携帯が震える。


…ブルブルブルッ


ー見覚えのない番号。


周りに人がいないか、目線をわずかにあげたとき、バックミラーに何かが映った気配がする。





…気のせいか。

マンションの敷地内で電話に出ることはやめ、再びエンジンボタンを押す。

ーボボボッボボボボボッ…


車を走らせようとした、そのとき。






.





首筋に激痛が走り、脳が異常な速さで思案を巡らす。


ードガァッ!


間髪入れずに訪れた二度めの激痛の正体を、胸元に垂れる鮮血で知る。

黒岩は、命の終わりを確信する。


前かがみになりながら、バックミラーを目でとらえる。




.



ー何故だ。何故こいつがいる。




「竹…本…」

後ろを見ようと体を捻じ曲げる。


「すいませんね、黒岩さん。すぐ終わりますから」



ーボボボボボッ…

駐車場に、エンジンの音が鳴り響いている。.....

煮二章

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