―誰かに恋焦がれるなんて、もうないと思っていた―
夢中になって仕事をしてきた大人の男女は、いつしか恋する気持ちを忘れてしまう。
恋に不器用なオトナたちは、久しぶりの恋に戸惑いながらも、大切な人との愛を実らせることができるのだろうかー?
◆これまでのあらすじ
弁護士の綾子(39)は、5年ぶりに再会した商社マンの元カレ・山本太一(42)に、久しぶりにときめく。2人のその後はというと……。
「お疲れさま。今日ちょっと疲れてる?」
太一はその夜、自宅で綾子とくつろいでいた。
ベトナム出張から戻ってきたあと、正式に綾子に交際を申し込み、2人は週1.2回のペースで会うようになっていたのだ。
「今回の交渉はかなり重要でさ…。何としても成功させたいんだ。残業続きだから、ちょっと寝不足気味かな」
太一にとって、この案件は、自分の今後を左右する大一番。
入社以来、早くから花形部署で大型案件を担当し、海外駐在も無事終え、順調に会社人生を歩んできた。そろそろ、会社の中枢部署に行きたいと考えている。この交渉がうまくいけば、希望の経営戦略部への異動にも王手をかけられると見込んでいた。
「とりあえず乾杯しようか」
そう言ってビールを開けようとした時、サイドテーブルに置いていたスマホが鳴った。画面には、上司である神田の名前が表示されている。
「業務時間外に悪い。さっき、現地から、ベトナムとの交渉が決裂したって連絡が入った。至急対応出来るか?」
電話越しに聞こえてくる、珍しく切羽詰まった神田の言葉に、太一は凍りつく。この案件は何としてでも成功させなければならないのだ。
「すぐ戻ります」
電話を切った太一は、綾子に事情を説明しスマホを片手に家を飛び出した。