「私が本気を出して、落ちない男なんかいない」
生まれながらの美貌とノリの良さで、数多の男性を虜にする恋多き女・木内愛理(26歳)。
デートの誘いなら毎晩のようにある。イケメンも、財力ある男性もいる。しかしどの相手もピンとこない…。
そんな愛理がある夜、運命的に出会った紳士・湊慎一郎に一目で恋をした。
そのことを幼馴染の優香に話すと、なんと湊と優香が知り合いだということが発覚。
愛理は早速、湊を落とそうと行動を開始する。
落ちない男、現る。
恵比寿にあるマンションの自室で、食い入るように鏡を覗きながら、愛理は入念に肌を作り込んでいく。
UV下地を塗り、ファンデーションを塗り、疲れが滲む目の下は明るい色のハイライトでくすみを飛ばす。
頬にポツリとできた吹き出物にはコンシーラーを何度も塗り込んで、肌色を完全に均一にしてから、最後はお粉で仕上げた。
その後10分かけてアイメイクを仕上げ、チークをふわりと乗せたら、ここぞという日に使う赤リップを唇に馴染ませて…。
「よし、完璧!」
時刻は19時15分。予定通りだ。
待ち合わせは20時に神宮前だから、余裕をもってそろそろ出かける支度をしよう。
何を隠そう、愛理はこの後、先日運命の出会いをした男・湊慎一郎とデートなのだ。
この大切な予定のために、愛理は定時ぴったりに渋谷のオフィスを後にし、一度自宅に戻ってシャワーを浴び、メイクを一からし直していた。
目ざとく、口うるさい女性上司がたまたま出張で不在だったことも、運が自分に味方をしているとしか思えない。
大丈夫。すべてうまくいく。
パールが揺れるピアスを耳に当てながら、愛理は鏡の中の自分を見つめてうっとりと微笑んだ。
この笑顔で、これまで何人の男たちを虜にしてきたか。
−私が本気出せば、落ちない男なんていないんだから。
愛理は自分をそんな風に鼓舞しながら、頭の中で段取りをシュミレーションする。
二軒目には、誘われたら行く。家まで送ると言われたら、タクシーにも乗る。思わせぶりな態度もとる。でも絶対に家にはあげないし、キスもしないでお預けにする…!
重要事項を改めて確認しながら、愛理はウキウキと玄関に向かい、お気に入りのパンプスに足を入れた。