2019.12.12
落ちない男 Vol.2「じゃあ…そろそろ行こうか」
距離を縮めたい。湊の心に近づきたい。
愛理が一生懸命あれやこれやと手を尽くしている間に、時間はあっという間に過ぎ去っていた。
湊の声で我に返ると、お互いに食後のコーヒーも全て飲み終えていた。
「あ、お会計…」
急いでバッグから財布を出そうとする愛理を、湊は席を立ちながら目配せで制した。
「会計なら、もう済ませた」
「ええ!ダメです。今夜は私、お礼がしたくて湊さんをお誘いしたのに」
当然ながら、男性と二人で食事をして、過去に愛理が財布を出した例などない。しかし今日の名目は、愛理が湊に感謝の気持ちを伝える会なのだ。ご馳走になってしまってはお礼にならない。
だが湊は、慌てる愛理に「いいから」と笑いかける。優しく目を細め、綺麗に揃った白い歯を見せて、こう言うのだった。
「大丈夫。お礼なら言葉でたくさんもらったから。それに『KEISUKE MATSUSHIMA y Oliva』は本当に来てみたいと思っていたから、タイミングよく愛理ちゃんに付き合ってもらえて嬉しかった。ありがとう」
「そんな…」
−ああ、なんて素敵なの…。
エスコートしてくれる湊の背中を眺めながら、愛理は心の中で叫ぶ。
こんなにもカッコよくて完璧で優しい人、きっともう二度と出会えない。絶対、彼と付き合いたい。
愛理の恋心は、もはや制御不能なほどに燃え上がっていた。
−月曜だから、あんまり遅くなりたくないけど…。3時間でも寝られれば大丈夫!
…しかしそんな愛理の心配は、まったくの杞憂に終わることとなる。
「じゃあ…今日はこれで」
「え…?」
湊にそう声をかけられ、愛理は一瞬、耳を疑った。
『KEISUKE MATSUSHIMA y Oliva』を出たところで、二軒目にも誘うことなく、湊はあっさり帰ろうと言ったのだ。
−ど…どうして?だってまだ、23時前だよ!?
初めての経験に戸惑いながら、愛理は頭をフル回転させて彼の真意を探る。そして「わかった」とひとりで頷いた。
−プライドが邪魔して誘えないんだわ。きっとそう。
それなら…と愛理はゴクリと唾を飲み込む。そういうことなら仕方がない。滅多にしないことだが、今だけは自分から動いてやろうじゃないか。
「…待って」
決意を固めた愛理は、タクシーを拾いに通りに出ようとする湊の腕をそっと掴んだ。そして驚き振り返る彼を、潤んだ瞳で見つめる。
「…湊さん。私、もう少し湊さんと一緒にいたいな♡」
しかし彼の反応は、愛理の予想したものとはまるで違っていた。
「はは。嬉しいけど、お互い明日も仕事だろ。今夜は早めに帰ろう」
掴んだ腕が、サッと払われる。その瞬間、愛理の心に鋭い痛みが走った。まるで、心の奥深くにナイフを突き刺されたような。
愛理は一歩も動けず、一言も発することができぬまま、タクシーに手を挙げる湊の背中を呆然と見つめるしかなかった。
「…恵比寿まで」
結局、湊に促されるまま、愛理はタクシーに乗った。ぼんやりと眺める車窓に、精気を失った表情の自分が映る。
−私じゃ…ダメなの?
バッグから手鏡を取り出し、ヨレてしまったファンデーションを直す。どんなに着飾っても、どんなに綺麗にメイクをしても、湊には通じなかった。
ー素材の魅力を活かすって、とても大事だと思うんだよ。お料理も、人もー
ふと、湊が言った意味深な言葉が脳裏をよぎる。彼の、何かを含んだような言い方が、ずっと愛理の中で引っかかっていた。
だが、湊が何を言いたかったのか、いくら考えても見当もつかず、そもそも自分の考えすぎかもしれない、と愛理は自分を納得させた。
鏡に映る顔は疲れ切っており、ツヤも潤いも感じられず、余計に愛理を落ち込ませた。
小さくため息をついて手鏡をしまう。その時、愛理はふと、お泊まりの際に見た優香の美肌を思い出した。
透明感があって、健康的で、艶々だった優香の肌…。
−私も、綺麗な肌を手に入れたい…!
愛理はおもむろにスマホを取り出すと、優香が長年使っていると言っていた『DHCオリーブバージンオイル』を検索し、切なる願いを込めて購入ボタンを押したのだった。
そして、「もう1回だけ…」とまるで呪文のように唱えて、背水の陣の作戦に頭を切り替えたのだった。
▶NEXT:12月19日 木曜更新予定
モテ・テクを駆使しても落ちない男・湊。そして発覚する、衝撃の事実…。
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