「私が本気を出して、落ちない男なんかいない」
生まれながらの美貌とノリの良さで、数多の男性を虜にする恋多き女・木内愛理(26歳)。
デートの誘いなら毎晩のようにある。イケメンも、財力ある男性もいる。しかしどの相手もピンとこない…。
そんな愛理がある夜、偶然出会った男に一目で恋をした。
しかしどういうわけか彼には、愛理がこれまでに培ってきたモテ・テクがまるで通じない。
果たして愛理は、落ちない男を振り向かせることができるのか…?
運命の出会い
白ワインの入ったグラスを目の前に掲げ、木内愛理はゆらゆら揺れる液体をぼんやりと眺めた。
「ねぇ。心が震えるような、どストライクな人に出会えるのって…きっと人生に一度か二度のことだよね」
そんなことを、まるで独り言のようにつぶやいて、再び物憂げにグラスを覗き込む。
愛理の目に映っているのは、ここ数日、何度も繰り返し脳内再生されている“あの場面”だった。
「なに。どうしたのよ、いきなり」
感傷的なセリフを口にする愛理に、白い歯を見せて声をかけたのは、幼馴染である優香。
徹底してロングヘアを貫く愛理とは対照的に、10代の頃から変わらぬショートヘアがトレードマークの優香は、化粧っ気もほとんどない。ナチュラル美人という形容詞がぴったりの女性だ。
彼女はキッチンから持ってきたチーズやクラッカーを、ネイルをしていない指で手際よくテーブルに並べ、興味津々といった様子で愛理の顔を覗き込んだ。
愛理は昔から、何かあるとすぐ優香の家に泊まる。それゆえ優香も慣れたもので、愛理の用件におおよその察しがついているようだ。また、何かしらの色恋ネタを持ってきたのね、と。
「そんなにいい男がいたの?」
「はい、乾杯」とグラスを合わせながら問いかける優香に、愛理はウンウンと思いっきり頷く。
「優香。私、ついに出会っちゃったかも…!」