2019.12.05
落ちない男 Vol.1「聞いてくれる?出会い方からしてもう、めちゃくちゃ運命的なの!」
興奮気味に語り始めた愛理だが、一方で優香は相槌を打ちつつも「またか」という表情を浮かべている。
それもそのはず。愛理と優香は都内の私立女子校で中学から一緒に育った仲。10代の頃から恋多き女だった愛理の恋バナを、優香は早14年、数限りなく聞かされているのだ。
優香は受験をして男女共学の有名私大に進学したため大学は別々になったのだが、愛理は付属女子大に進んだあと、ルックスもさらに垢抜け、男関係もますます派手になっていった。
女子大を卒業した後、PR会社で働くようになった20代前半の愛理といえば、夜な夜な西麻布に繰り出してはITや飲食で財を成した若手社長なんかと飲み歩くのが日課。
彼女が話す恋バナの登場人物も、もはやただの一般人ではない、テレビや雑誌の有名人なんかが飛び出すようになっていった。
卒業後、総合商社に一般職で就職した優香は、別世界のように華やかな愛理の話に最初こそ驚いていたのだが、いつしか慣れっこになってしまった。
そのくらい派手な恋愛遍歴を持つ愛理だから、彼女が「運命の出会い」などと口にしても、優香としてはにわかに信じ難いのだ。
「先週の金曜にね、食事会を2件ハシゴしたんだけど…」
「2件ハシゴ…?」
語り始めた愛理の言葉に、優香は冒頭からツッコミを入れる。しかし愛理にとってはいつもどおりの通常運転らしく、問いかけはそのまま無視された。
「それが、せっかくハシゴしたのに2件とも不発でさ。翌日にデートの約束もあったから、もう早めに帰っちゃお〜ってことで先に抜けたの。で、タクシーを捕まえようと六本木通りを歩いてたら、面倒なことに酔っ払い男二人に絡まれちゃって」
深夜の六本木通りを愛理が一人歩いていて、声をかけられることなら珍しくはない。しかしこの日の男たちはタチが悪かった。
「もう帰るからって断ってもしつこくついてきて、挙句の果てには肩とか触ってきて、ほんと最悪だったの。そしたらね…!」
そこまで話すと、愛理は急に瞳を輝かせ、優香に向かって身を乗り出した。
「ちょうど目の前のビルから男の人が出てきて。もちろん、知らない人。なんだけど、私が絡まれてるのを見つけてまっすぐこっちに向かってきたと思ったら『愛!大丈夫か』って声をかけてくれて、彼氏のフリして助け出してくれたの…!」
「すごくない!?」「ロマンチックじゃない!?」と畳み掛ける愛理。確かにドラマか映画のような話で、優香も「それはすごい」と目を丸くしている。
「愛!って叫んだのはね、適当だったんだって。後から本当の名前はなんだった?って聞かれて愛理だって言ったら、あながち間違ってなかったんだって笑ってた。その笑顔がもう、めちゃくちゃカッコよくて…!」
まるで10代の乙女に戻ったかのように、愛理は頬をピンクに染めている。そして瞳を輝かせながら「これはもう絶対、運命の出会いとしか思えない」と断言した。
「で、その彼の名前とか連絡先とか聞かなかったの?」
思い出したように、優香が冷静に問いかけると、愛理は突如泣き顔を作り「それが…」と悲痛な声を出してテーブルに突っ伏した。
「私としたことが、舞い上がって聞くの忘れちゃって…。でもね、彼が出てきたビル、あれはたしか有名なコンサルティング会社が入ってるビルだった。だから勤務先はそこなのかなって思ってるんだけど」
「その辺だったら…」
愛理の嘆きを聞いた優香が、何やら思案の表情を見せながら有名なコンサルティング会社の名前を口にした。
「そうそう、その会社!」
愛理が勢いよく返事をすると、優香の口から思いがけない言葉がでてきたのだ。
「その会社なら、私の大学時代の先輩が働いてるよ。もしかしたら繋げてあげられるかも」
【落ちない男】の記事一覧
おすすめ記事
2016.01.02
東京婚活事情
東京婚活事情:取り柄のない普通の女が、眼科開業医を仕留めた理由
2022.03.17
いつの間にか、Around40
「いつ結婚?」そこそこで手を打つか、本当に好きな人が現れるのを待つか。アラフォー女子の潮時とは
2019.07.22
東京ハイエンド妻
“29歳、駆け込み婚”で全てを手にしたはずだったのに...結婚2年目の女が悟った理想と現実
2017.07.20
ドクターラバー
本命男とのデートが、2度目のドタキャン。傷心女を狂わせた熱帯夜
2017.09.09
LINEの答えあわせ【Q】
食事会後の連絡先交換。個別で聞くのかグループ交換、どちらが正解?LINEの答えあわせ【Q】
2018.11.30
幸せな2人
幸せな2人:大恋愛の末に結婚したサラリーマン妻。医師の妻になった同級生との再会で、芽生えた劣等感
2016.08.07
人形町ライフ
人形町ライフ:おのぼり女子が東京を一周回って住みついた、「中央区」ブランドと「安らぎ」の交差する街
2022.11.23
8rules~エリカのマイルール~
有名スポーツブランドのアンバサダーを目指す女。企業から誘われ、面談に行ったはいいが…
2019.03.18
サヨナラH
サヨナラH:“夫婦ごっこ”を終えた、37歳女の孤独な夜。離婚後の傷心を癒した、昔の男との思い出とは
2019.09.17
未来Diary
未来Diary~優愛ver.~:人生究極の“AorB”。1枚のカードが、29歳女の人生を変える
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"