「聞いてくれる?出会い方からしてもう、めちゃくちゃ運命的なの!」
興奮気味に語り始めた愛理だが、一方で優香は相槌を打ちつつも「またか」という表情を浮かべている。
それもそのはず。愛理と優香は都内の私立女子校で中学から一緒に育った仲。10代の頃から恋多き女だった愛理の恋バナを、優香は早14年、数限りなく聞かされているのだ。
優香は受験をして男女共学の有名私大に進学したため大学は別々になったのだが、愛理は付属女子大に進んだあと、ルックスもさらに垢抜け、男関係もますます派手になっていった。
女子大を卒業した後、PR会社で働くようになった20代前半の愛理といえば、夜な夜な西麻布に繰り出してはITや飲食で財を成した若手社長なんかと飲み歩くのが日課。
彼女が話す恋バナの登場人物も、もはやただの一般人ではない、テレビや雑誌の有名人なんかが飛び出すようになっていった。
卒業後、総合商社に一般職で就職した優香は、別世界のように華やかな愛理の話に最初こそ驚いていたのだが、いつしか慣れっこになってしまった。
そのくらい派手な恋愛遍歴を持つ愛理だから、彼女が「運命の出会い」などと口にしても、優香としてはにわかに信じ難いのだ。
「先週の金曜にね、食事会を2件ハシゴしたんだけど…」
「2件ハシゴ…?」
語り始めた愛理の言葉に、優香は冒頭からツッコミを入れる。しかし愛理にとってはいつもどおりの通常運転らしく、問いかけはそのまま無視された。
「それが、せっかくハシゴしたのに2件とも不発でさ。翌日にデートの約束もあったから、もう早めに帰っちゃお〜ってことで先に抜けたの。で、タクシーを捕まえようと六本木通りを歩いてたら、面倒なことに酔っ払い男二人に絡まれちゃって」
深夜の六本木通りを愛理が一人歩いていて、声をかけられることなら珍しくはない。しかしこの日の男たちはタチが悪かった。
「もう帰るからって断ってもしつこくついてきて、挙句の果てには肩とか触ってきて、ほんと最悪だったの。そしたらね…!」
そこまで話すと、愛理は急に瞳を輝かせ、優香に向かって身を乗り出した。
「ちょうど目の前のビルから男の人が出てきて。もちろん、知らない人。なんだけど、私が絡まれてるのを見つけてまっすぐこっちに向かってきたと思ったら『愛!大丈夫か』って声をかけてくれて、彼氏のフリして助け出してくれたの…!」
「すごくない!?」「ロマンチックじゃない!?」と畳み掛ける愛理。確かにドラマか映画のような話で、優香も「それはすごい」と目を丸くしている。
「愛!って叫んだのはね、適当だったんだって。後から本当の名前はなんだった?って聞かれて愛理だって言ったら、あながち間違ってなかったんだって笑ってた。その笑顔がもう、めちゃくちゃカッコよくて…!」
まるで10代の乙女に戻ったかのように、愛理は頬をピンクに染めている。そして瞳を輝かせながら「これはもう絶対、運命の出会いとしか思えない」と断言した。
「で、その彼の名前とか連絡先とか聞かなかったの?」
思い出したように、優香が冷静に問いかけると、愛理は突如泣き顔を作り「それが…」と悲痛な声を出してテーブルに突っ伏した。
「私としたことが、舞い上がって聞くの忘れちゃって…。でもね、彼が出てきたビル、あれはたしか有名なコンサルティング会社が入ってるビルだった。だから勤務先はそこなのかなって思ってるんだけど」
「その辺だったら…」
愛理の嘆きを聞いた優香が、何やら思案の表情を見せながら有名なコンサルティング会社の名前を口にした。
「そうそう、その会社!」
愛理が勢いよく返事をすると、優香の口から思いがけない言葉がでてきたのだ。
「その会社なら、私の大学時代の先輩が働いてるよ。もしかしたら繋げてあげられるかも」