2019.10.21
SPECIAL TALK Vol.612020年のニューリーダーたちに告ぐ
1998年、のちに「自由が丘の人の流れを変えた」とまで評されることになるパティスリー『モンサンクレール』がオープンした。
シェフパティシエは、和菓子屋で育った辻口博啓氏。いまや13もの菓子ブランドを展開する辻口氏だが、パティシエ修業は決して恵まれた環境でスタートしたわけではなかった。
自己資金もなく、援助も見込めない状態から独立を目指すため、選んだのは「コンクールに出場し、優勝する」という道。世界の洋菓子大会で数多くの優勝経験を持ち、現在では菓子作りや店舗経営だけでなく、地域振興まで手掛ける。
彼はいかに困難を突破してきたのか。今なお挑戦を続けるその姿勢から、ニューリーダーが次代を切り拓くためのヒントが見えてくる。
辻口博啓氏 オーナーパティシエとして、モンサンクレール(自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる13ブランドを展開。クープ・デュ・モンドなどの洋菓子の世界大会に日本代表として出場し、数々の優勝経験を持つが、今もなおコンクールに挑戦しており、サロン・デュ・ショコラ・パリで発表されるショコラ品評会では、2013年~2018年の6年連続で最高評価を獲得。2019年1月には自身のショコラのクリエーションを追ったドキュメンタリー映画『LE CHOCOLAT DE H』が公開。サン・セバスティアン国際映画祭などで正式上映された。スイーツを通した地域振興、企業とのコラボレーションやプロデュース、講演や著書出版など積極的に活動する他、低糖質スイーツの第一人者として数々のロカボスイーツの開発・監修に取り組む。
金丸:今日は『モンサンクレール』など、数多くのブランドを手掛けているパティシエの辻口博啓さんをお招きしました。お忙しいところ、ありがとうございます。
辻口:こちらこそお招きいただき光栄です。
金丸:本日の対談の舞台は、今年6月にオープンした青山の『ウルフギャング・ステーキハウス シグニチャー』です。ウルフギャングに通う常連たちの“わがまま”を叶える場所として、より上質なメニューを提供しており、「熊本あか牛」の熟成ステーキも味わえるそうです。
辻口:それは楽しみですね。
金丸:以前、フレンチの三國清三シェフと対談する機会がありましたが、パティシエの方とこうしてお話しするのは初めてです。パティシエというと「職人」のイメージが強くて、朝3時に起きて、お菓子作りに打ち込むような厳しい世界を想像しますが。
辻口:今それをやると、みんな辞めてしまいます(笑)。朝は7時から厨房に、夜は仕込みのため遅くまで、という感じです。
金丸:辻口さんは20代の頃から、国内の菓子職人の賞を総なめにするご活躍をされていますね。
辻口:総なめは言い過ぎですよ(笑)。初めて優勝したのは、全国洋菓子技術コンクールです。23歳のときに最年少での優勝でした。
金丸:素晴らしいですね。今日は辻口さんがどのような人生を歩み、日本を代表するパティシエにまで上り詰めたのか、じっくり伺います。どうぞよろしくお願いします。
すべてはショートケーキとの出合いから始まった
金丸:早速ですが、ご出身はどちらですか?
辻口:石川県の七尾市です。
金丸:七尾といえばディスプレイの生産地として有名ですが、温泉でも有名ですよね。
辻口:七尾には『加賀屋』という老舗の温泉旅館があります。2006年に、その“加賀屋さん”の横でケーキ屋をプロデュースしないかというお話をいただき、今も能登の食材をふんだんに使ったスイーツを提供しています。
金丸:地元への貢献もされているんですね。ところで、ご兄弟は?
辻口:私は長男で、妹と弟が1人ずついます。
金丸:長男ですか! 辻口さんからは、長男という雰囲気を感じられません。
辻口:頭もツンツンしてるからですかね(笑)。
金丸:長男の髪型じゃないですよね(笑)。自由に育てられた三男くらいの感じ。
辻口:頭はとんがってますけど、意外と性格は丸いんです。自分で言うのもなんですけど(笑)。
金丸:私も長男ですが、子どもの頃から学校では「長男に見えない」と言われ続けてきました。ご両親はどんなお仕事を?
辻口:実家は和菓子屋でした。本来は、和菓子屋の3代目になるはずだったんです。
金丸:そうだったんですか。今のご活躍を考えると、和菓子業界ももったいないことをしましたね。実家はどんな和菓子を作っていらしたのですか?
辻口:練り切り、羊羹から、おまんじゅうや赤飯までなんでも作っていました。
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