女たちの選択~その後の人生~ Vol.8

「お前は、何もできないから黙ってろ」夫から奴隷のような扱いを受けても別れない30代妻

「実は…私の夫、モラハラなのかもしれません」

落ち着きなく瞳を動かし、周囲の様子を注意深く観察したあとで、久美子は意を決したように口を開いた。

「暴力を振るうとか、そういうんじゃないんです。ただ…何かにつけて私を侮辱するんです。お前はバカなんだから黙ってろ、とか、どうせ何もできないんだから家にいて家事を完璧にしろ、とか…」

自分でも言いながら、居た堪れないのだろうか。視線を逸らし、うつむきながら久美子は続ける。

「実は少し前にも、大泣きしてしまった事件がありました。私もぼーっとしていたのはいけないのですが、炊飯器のスイッチを入れ忘れていたことに、夫が帰宅してから気付いたんです。慌てて謝ったんですが、案の定、罵詈雑言を浴びせられて…。

最終的には“もう待っていられない、弁当買ってこい”と無理やり家を追い出されて。私…猛ダッシュして、閉店間際のクイーンズ伊勢丹に駆け込んだんです」

まるで、奴隷の扱いである。しかしながら久美子は、夫の度重なる暴言にも威張り散らした態度にも、この10年間、特段の疑問を持ってこなかったというのだ。

「もともと10歳も上だし、結婚する前、付き合っている時から完全に上下関係ができていたからかもしれません。もちろん交際当初は暴言を吐かれるようなことも、侮辱されることもなかったけれど、例えば、久美子は俺がいないと何もできない、捨てられないようにしろよ、とか…そんなようなことは言われていたので…」

その時点で、“モラ男”要素があることに気づいてもいい。だが久美子は違った。

「もともと私、自分に自信がないタイプで…。おかしいなと感じても、怒りをぶつける方が大変だと感じてしまうんです」

そういうタイプの女だったから、俺様気質の夫に不安も不信も抱くことなく結婚を決めてしまったようだ。

しかしそんな彼女にも転機が訪れる。自分的にはちょっとした愚痴のつもりで、例の“炊飯器事件”を学生時代からの女友達に話した時のこと。

最初は黙って聞いてくれていた友人が、遠慮がちに、しかし強い口調で進言してきたという。

「ねぇ、久美子。失礼かもしれないけど、旦那さんの久美子に対する態度、普通じゃないと思う。そういうのモラハラって言うんじゃないの…?」

どうしても言わずにいられなかったのだろう。

−そうか…モラハラだったのか。

その時にようやく久美子は「うちの夫、モラハラだったんだ…」と、気がついたという。

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