1/3のイノセンス ~友達の恋人~ Vol.7

親友の彼氏から不意打ちのキス…!その瞬間、女が無意識にとった裏切りの行動とは

「え!そんな、ちが…」

大げさに顔の前で手を振り、慌てて否定する。しかしその癖「違う」と言い切ることができない。

…そんな私に、健一は悲しげな笑顔を向けた。そして一呼吸を置くと、何かを吹っ切るように宙を見上げる。

「いいんだ別に。わかってたことだよ」

静かにそう呟いたあと、もう一度私に向けた瞳は、これまでに見たことのない真剣な眼差しでドキッとさせられた。

−来る。

咄嗟に身構えた、次の瞬間。私の最も恐れていた言葉が聞こえてしまった。

「でも…それでも俺は、橋本が好きだ」

−好きだ。

そのセリフに、私の胸はヒリヒリと痛む。

健一を傷つけたくない。けれど、彼の気持ちには応えられない。

敦史と優香から「付き合うことになった」と報告された時とはまた違う、逃げ出したくなるような痛みだ。

そしてその居た堪れない痛みは、健一が続ける言葉で益々、熱を抱えていった。

「俺、橋本が敦史と幸せになるんならそれでいいと思ってた。二人は仲がいいし、傍から見てても正直、お似合いだからさ。でも敦史から、橋本の友達と付き合い始めたって聞いて…なんだそれって。それなら俺、これ以上自分の気持ちを我慢する必要ないって、そう思って…」

しかしそこまで言うと、健一はふと言葉を切った。

おそらく…目の前で私が、困惑を隠せずにいることに気がついたから。

「いや、別に返事は急がない。だってほら、もう2年以上もずっと我慢してたんだ。今更待つのなんか、どうってことない」

急に明るい声を出し、私の沈んだ表情をどうにか回復させようと必死で取り繕う健一。深く傷ついているのは、他ならぬ自分自身のはずなのに…。

「…ありがとう」

ただただ胸が痛くて、申し訳なくて。私はそう小さく答えるのがやっとだった。


結局、私と健一はその後、気まずさを拭えないまま食事を終え、店を出た。

別れ際、健一は遠慮がちに「送ろうか」と尋ねた。しかし「大丈夫!」と答えるとすぐに引き下がり、私たちは別々の方向に視線を送るのだった。

「じゃあ…また」

健一が私に向ける、ぎこちない笑顔。

胸が痛む。…まるで敦史を前に無理やり笑う、自分を見ているようで。

私はその痛々しい光景から目を背けるようにして、「じゃあ」と自宅に向かい踵を返した。

残酷な仕打ちだとわかっていても、一刻も早くこの場から立ち去ってしまいたくて。

−まだ、23時過ぎだったのか。

足早に帰路を進みながら、私はスマホで時間を確認し、なんとも言えない気持ちになる。

敦史と二人で飲んでいるときは時間があっという間に過ぎて、日付が変わる前にお開きになることなんて一度もなかった。

−バカみたい、私…。

結局、他の誰かで埋めようなんて無理なんだ。

それなのに安易に健一の誘いに乗り、それで結局、敦史の話ばっかりして彼を傷つけた。

独りよがりな自分が嫌になって、私はひとり頭を振る。

するとその時、左手に持ったスマホが光るのが見えた。

“沢口敦史”

画面に浮かぶのは、思いがけない敦史の名前だった。


「杏、今どこにいる?」

慌てて応答ボタンを押した私に、敦史は間髪入れずそう尋ねた。

「えっ…」

突然の電話に驚き、息が上がってしまう。

動揺を隠せぬまま「どこって…恵比寿。家の近くだけど」と答えると、電話の向こうで、敦史が小さく「良かった」と呟くのが聞こえた。......


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