「女は、美容とオシャレに投資すべき」と胸張る“散財女”が、イケメン外銀男に玉砕した夜
“可愛い”だけでは、生きていけない
—私、このままじゃ本当にヤバくない...?
真弓に連れ出されたのは、貯蓄力アップのマネーセミナーであった。そのセミナーを受講し終えた彩香は、配布されたテキストを握りしめて呆然としていた。
結婚、妊娠、出産、子育て、住宅、そして病気の際や老後の費用...。
人一人が生きていくのに、これほど莫大なお金がかかるなんて考えたこともなかった。彩香は生まれて初めて、自分の金銭感覚と貯蓄力の無さに危機感を抱いたのだ。
可愛さを売りに30歳までにそれなりの男性と結婚すれば人生安泰と信じていたが、日本経済や年金の仕組みをきちんと知れば知るほど、真弓の言う通り、このご時世は不安なことばかりだ。
そして皮肉なことに、この状況を把握しているだろう智也のような男は、たしかに彩香を選ばないこともよく理解してしまった。
たとえ可愛さだけで結婚できたとしても、贅沢三昧を続けていれば、結局は自分の身を滅ぼすことになる。例え年収が人並み以上であったとしても、貯蓄ゼロの先に待つのは哀れな老後に違いない。
彩香は今後支出を抑え、貯金や投資、資産運用についての知識を深めることを決意した。
散財女・彩香に起きた変化
貯蓄力アップのマネーセミナーのあと、彩香はまず、クローゼットの中を整理した。
よくよく膨大なアイテムとじっくり向き合ってみると、購入しただけでほとんど使っていない服や靴、一目惚れで衝動買いしたもののイマイチ似合わずダグ付きのまま放置されたドレスなど、自分の計画性のない散財癖がよく分かる。
—でも、まだ使える服も靴もコスメも沢山あるわ...。
シーズン毎に必須だと買い足していたアイテムも、真弓の言った通り、結局は同じような色、デザインのものばかりだ。
—まずは、断捨離から!
そうして彩香は、不要なモノはフリマアプリなども使いながら思い切って処分し、今後は本当に必要なモノだけを慎重に選びながら支出を抑えようと誓った。
◆
そして、とある日の仕事帰り。
彩香は丸の内の丸善にて、熱心に貯蓄や投資の本を物色していた。だが、知識を深めようと決意はしたものの、お金に関する本は幅広く並んでおり、何から手をつけたら良いか悩んでしまう。
すると、突然ある男が彩香の顔を無遠慮に覗き込んできた。
「君、こんな本読むの?」
それは例の猫目の外銀男子、智也であった。
—そういえば、彼も丸の内勤務だったわ...。
彩香は先日の暴言を思い出し、反射的に逃げ腰になる。けれどその反面、やはりタイプの顔を至近距離で目にすると、無条件に胸が高鳴ってしまう。
「投資の勉強でもしたいの?」
「いや...えっと......。うん、そんな感じです...」
きっと、また馬鹿にされる。
彩香は咄嗟に身を固くしたが、智也は意外にも穏やかに言った。
「初心者向けなら、コレがいいんじゃない?あ、コレも分かりやすいよ。こっちもマンガ形式で面白いし...」
彼はテキパキと何冊か本を選ぶと、彩香に次々と手渡してくれる。
「すごい...。さすが、金融系の人はきちんと勉強してるんだね」
彩香が思わず感心すると、智也は一瞬手を止め、ぶっきらぼうに顔を背けた。
—ヤバい。私、上から目線っぽいこと言っちゃったかな...。
「と、智也くん、本当にありがとう。私、これ買って帰るね!」
そうして智也の機嫌が悪くならないうちにこの場を去ろうとした彩香だが、彼は乱暴に言い放った。
「...ていうか、この類の本なら家に沢山あるから貸してやるよ」
「え...?」
親切なのか、怒っているのか。戸惑う彩香に、智也はさらに続ける。