「女は、美容とオシャレに投資すべき」と胸張る“散財女”が、イケメン外銀男に玉砕した夜
“コスパの悪い女”判定
「彩香ちゃん、すっごい俺のタイプなんだけど...」
「今度2人で食事しない?」
「そのワンピース似合ってるね。すごく可愛いよ」
食事会ではいつもの通り、男たちは彩香を囲みチヤホヤと褒め称えてくれる。
しかも、今夜は間違いなく“アタリ”だ。
医者や弁護士などエリート、さらに外見も良い男が揃っている。
中でも猫目のスッキリした顔立ちの外資系投資銀行勤務の智也は、ダントツで彩香の好みだった。
「智也くん。次、何飲みますか?」
首を傾げて肋骨を捻り、絶妙なSラインを意識して上目遣いで智也を見つめる。大概の男は、コレで彩香にロックオンされるのだ。
「...とりあえず、水でいいや」
しかし、智也は意外にも薄い反応を見せた。
彩香は半ばムキになりながら料理を取り分け、可愛らしい質問を投げ、ほんの少しボディタッチまで加えてみる。
すると、智也の肩に軽く添えた手がギュッと強く握られた。
—えっ?
突然の彼の行動に、彩香は思わずドキっとする。しかし智也は、彩香の期待を大きく裏切るセリフを口にした。
「そうやってクネクネぶりっ子して、良いお嫁さん候補とでも思われたいの?」
—......は?
「でも君さ、明らかに金のかかりそうな女だよね。ショップバック沢山持って店に入ってきたし。彼女ならまだしも、結婚にはコスパ悪そー」
—......な、何なの、この男...!?
彩香は額の血管がピクピクと浮き上がるほどの怒りを覚えたが、人前で醜態を見せるわけにはいかない。
「...智也くんって、いじわる」
かろうじて笑顔を崩さずにそう答えたが、胸の中は羞恥心で一杯だった。
しかし何よりも、タイプである智也に図星を突かれたことは、彩香に多大なショックを与えたのだった。
◆
「外銀マンって、やっぱり調子に乗ってるわよね。いくらハイスペでも、性格が悪い男なんてお断りだわ」
翌日のランチタイム。彩香は真弓を誘い、早々に昨晩の惨劇をぶちまけていた。
「“彼女ならまだしも結婚相手にはちょっと‥”なんて、こっちのセリフ!あんな高飛車な性悪男、誰も結婚相手になんて選ばないわよ!」
彩香は智也の悪口を並べたて、どうにか昨晩の鬱憤を晴らそうと必死だ。だが、彩香を馬鹿にしたような彼の不敵な笑みは頭から離れず、心のモヤモヤもなかなか晴れない。
「でもさ...」
すると真弓は眉を寄せながら、言いづらそうに口を開いた。
「私も正直...その智也って人の意見に賛成。彩香のお金の使い方は異常だよ...」
「な、何よ。真弓まで!」
いつになく真剣に苦言する真弓に、彩香は思わず狼狽える。
「貯蓄が2,000万円必要とか、これだけ年金問題もニュースになってるのに、外見やオシャレにお給料全額つぎ込むのを、本当に何とも思わないの...?」
もちろん、老後の貯蓄云々のニュースはしょっちゅう目にする。けれど、彩香はそれを“自分事”と考えたことはない。
「そ、そんなのは......、近い将来出会う“旦那様”にお任せする話じゃない?」
彩香が敢えておどけたように答えると、真弓は大きく溜息をついた。
「実は私は近々結婚するけど、彼とはいつもお金について話し合ってる。彩香はとにかく、少しでもお金の使い方を改めた方がいい」
「え?結婚!?!?ちょっと私、そんな話まったく聞いてないわ!!!」
彩香は思わずテーブルに身を乗り出したが、真弓は「だって、聞かれなかったから」と涼しい顔をしている。
真弓の婚約者というのは、2つ年上の大手法律事務所の弁護士だそうだ。無理矢理写真も見せてもらったが、外見も悪くない。
—嘘でしょ。どうして真弓が、いつの間に...しかもイイ男......。
親友の婚約に驚きと動揺を隠せない彩香であったが、真弓はそんな彩香を強制的に、あるところへと連れ出した。