運命の恋は、突然に。
「幸太!何やってたんだよ、遅いぞ」
その日の夜。約束の時間に30分遅れ、指定された恵比寿のレストランにたどり着いた幸太を迎えたのは、いつもと変わらぬ顔ぶれの同期2人と、いつもとは桁外れて煌びやかな美女3人だった。
事の発端は1ヶ月前。
いつもつるんでいる同期3人組のひとりが、日系航空会社の美人CAと知り合いになったと鼻高々に自慢してきた。それなら是が非でも食事会を開くべきだと迫ったのが、この夜実現した、というわけ。
「悪い。クライアント先で、社長にタイミング悪く捕まっちゃってさぁ…」
「遅れてすみません」と謝りながら、集まっている美女たちに一人ひとり視線を合わせていく。そして最後のひとりに会釈をした、その時だ。
幸太のために空けられた隣の席で、まるで花のように微笑む女性。
彼女と目と目があった瞬間、幸太はまるで時が止まったように動けなくなってしまったのだ。
「何ぼーっとしてるんだよ。小百合ちゃんがあんまり綺麗だから、見惚れちゃったか?」
同期の冷やかしで慌てて我にかえる。
しかし「小百合ちゃん」と呼ばれたその女性がくすくすと可笑しそうに笑う姿からも、幸太はやはり目を離すことができなかった。
−まさか俺が、一目惚れをするとは…。
しかも相手は確実にモテるであろう、美人CAである。
“そこそこ”を好んでいたはずの自分が、まさかこんな高嶺の花に恋心を抱くとは…。思いがけない心の動きに、自分が自分でないような気さえする。
「幸太さんは、もともと東京の方なんですか?」
本当は男の自分から話題を提供すべきなのだろうが、何を話せばいいか正解がわからない。ぐずぐずとしているうち、小百合の方からそう尋ねてきた。
「いや、出身は松本です。大学で上京して、そこからはずっと東京なんだけど」
会話すらリードできない自分を情けなく思いながら、事実だけを答える。すると、奇跡が起きた。
なんと小百合が目を輝かせ、こう答えたのだ。
「すごい偶然!私も長野出身で、松本なんです…!」
同郷であるという共通点は、初対面の男女を一気に打ち解けさせる安心感がある。
実家の場所を伝え合ったり、最近新しいカフェがどんどんできている中町通りの話題などで盛り上がって、なんと幸太はこの夜、自ら小百合とLINEを交換するという偉業を成し遂げたのだ。
まさかの展開に同期たちも驚いたようで、食事会がお開きになったあとの“反省会”は幸太と小百合の話題で持ちきりとなった。
「幸太、これは千載一遇のチャンスだ」
「悔しいけど、俺たちから見てもかなりいい雰囲気だったぞ」
同期たちはまるで自分の事のように興奮し、幸太を鼓舞してくれる。
すっかり乗せられてしまった幸太は、家に帰ってからも胸の高鳴りを鎮めることができなかった。それで、ほとんど勢いのままに小百合を誘ったのだ。
“よかったら今度、二人で食事しませんか”
心臓が飛び出そうなほど緊張しながら送ったLINEは、思いがけずすぐに既読になった。
しかし1分、2分…10分経っても返事が届かない。
–そうだよな。いい雰囲気だったとか、やっぱりただの勘違いなんだよ…。
鳴らないスマホを見つめ続ける苦痛に耐えきれなくなった幸太は、やりきれぬ思いを吹っ切るようにしてスマホをベッド脇に投げ捨てた。