現れた“彼女”
恵比寿のビアバー『101 TOKYO』。喧騒の中で、着信に気づいたのは偶然のことだった。
「お前もさぁ俺とばっか飲んでるけど、他にいい男いないのかよ」
酔いがまわり饒舌になった敦史が私をからかう。
「あのねぇ。私は敦史が誘ってくるから仕方なく付き合ってあげてるのよ」
憎まれ口に憎まれ口で返す私。口を尖らせじろりと睨んでみせるけれど、彼は楽しげに肩を揺らすだけだ。
「まったく、もう」と言いながら手持ち無沙汰にスマホを触る。ちょうどそのタイミングで、画面に“三浦優香”のLINEアカウントが表示されていたのだ。
「もしもし、優香?どうしたの?」
電話をよこしたのは、大学時代からの友人・優香。
都内の私立大学で出会い、絵に描いたような青春時代を共に過ごした親友だった。
卒業後、バリキャリ志向だった私は大手広告代理店に入社。優香は自身の父親が名の知れた弁護士であるツテもあり、4大ローファームの一つに秘書として採用された。
最近は生活サイクルの違いでなかなか会えなくなっていたから、こんな風に電話がかかってくるのは珍しい。
「杏、いまどこにいるの?」
どこか切羽詰まった様子の親友に、私は一応周囲に配慮をし、声を潜めて答える。
「同期と恵比寿で飲んでる。ほら、優香にも話したことあるでしょ、敦史と一緒にいるのよ」
優香と敦史に面識はない。しかし私は優香と一緒にいる時、“仲の良い同期”として頻繁に敦史の話題を出していた。それゆえ彼女はすぐに「ああ、敦史くん」と理解したようだ。
「ちょっと杏に話したいことがあったんだけど…大丈夫、また今度にする。お邪魔してごめんね」
優香はそう言って電話を切ろうとした。しかしいつもより明らかに低い声のトーンが心配になり、私の方から彼女を引き止めたのだ。
「優香、本当に大丈夫?」
敦史に「少し待ってて」と目配せをしてから、私は優香との会話に戻ろうとした。するとそれまでやり取りを黙って聞いていた敦史が、私にこんな提案をしたのだ。
「ここに呼んであげれば?女の子なら、俺はむしろ大歓迎」
この記事へのコメント
ま、言ってたとしても彼が友達を好きになっちゃう可能性はあるけど(笑)
今後の展開は彼と友達が付き合うんだろうけど、結末が予想出来ないから楽しみ!
東カレらしくなく純情な感情(笑)を貫いて、
マウンティング系の話にならないといいなー