「私はもう、必要ないですよね?」初めて聞かされた、可愛い後輩が隠していた本音
「私、本当は深山先輩のチームに呼んでもらえて、すごく嬉しくって。」
菜穂子が言った言葉は、沙織にとっては意外だった。だが驚く沙織をよそに、菜穂子は堰を切ったように話し始めた。
ずっと沙織に憧れていたこと、社内で「期待のエース」と、もて囃されることにプレッシャーを感じていること、頑張ろうとすればするほど単純なミスを連発してパニックになっていたこと…。
「仕事辞めようかなって、最近は何度も考えていました。こんな自分は必要ないだろうなって。」
時折、下唇をぐっと噛みながら俯向く菜穂子。瞳からは、光るものがぽとりとテーブルの上に落ちる。菜穂子の小さく震える肩を見て、沙織も思わず鼻の奥にツンとするものを感じた。
鼻の先を赤くして、必死に涙を堪えながらも正直な気持ちを伝えようとしてくれる菜穂子。文句も言わず自分を責め続け、人に見えないところで一生懸命踏ん張っている彼女の姿が、沙織の頭に自然と浮かんだ。
「菜穂子ちゃん、私の方こそごめん。今回のプロジェクトを成功させたいって思いが先走っちゃって、菜穂子ちゃんやみんなにきつく当たってたところがあると思うの。」
実際、同期の雅也からはそのような指摘を受けた。
それなのに、こうして目の前で可愛い後輩が涙を見せるまで、自分の中で危機感を持てなかったことを、沙織は心底後悔した。
◆
この一件をきっかけに沙織は、自分の目指すリーダー像について、改めて考えるようになっていた。
一方の菜穂子は肩の荷が少しだけ軽くなったのか、以前のように積極的に仕事に取り組む姿を見せてくれるようになり、沙織を安心させた。
菜穂子はもともと、仕事ができないわけではない。自信を失っていただけなのだ。
一緒に仕事をする仲間が、生き生きとした表情を見せてくれることが沙織のモチベーションになることも、今回の件で学ぶことができた。
プロジェクトも無事に佳境を迎えている今、残業をしていても沙織が鳴らすヒールの音は、どこか軽やかだ。
ある日の夜、化粧直しを終えてデスクに戻っている時、人がまばらになった室内で雅也の姿を見つけた。
—そういえば…。
よくよく考えると、最初に自分の暴走を止めようとしてくれたのは彼かもしれない、と沙織は思い至った。
いつも気にかけて、困った時には声をかけてきたり、助けようとしてくれる雅也。
今回、菜穂子が溜め込んでいた思いを聞けたのも、『休足時間』を渡すためカフェに入ったからだろう。だとしたら、そのきっかけを作ってくれたのは、やはり雅也なのかもしれない。
「ねえ。」
雅也の席に近づき、沙織はそっと声をかける。
「何、どうしたの?」
そう言って椅子に座ったまま上目遣いで見上げてくるその態度はそっけないが、沙織はそんなこと気にせずこう提案した。
「この前もらった、差し入れのお礼させてよ。」
雅也は「差し入れ?」と一瞬考えたが、すぐに思い出したようで「あぁ」と言って、ふっと柔らかな表情になった。
「じゃあ、おいしいものご馳走してくれよな。」
そう言って、雅也がいたずらっぽい笑顔を向けてくる。その温かな眼差しに、沙織の鼓動は今までにないほど大きく波打つのだった。
—Fin.
<衣装協力>
P1/べージュノーカラージャケット¥24,000/CELFORD(CELFORD ルミネ新宿1店)ノースリーブブラウス¥9,900/EMMEL REFINES(EMMEL REFINES ルミネ新宿店)イエローレースタイトスカート¥14,000/EMMEL REFINES (EMMEL REFINES ルミネ新宿店)イヤリング¥4,950/JUICY ROCK 白バッグ¥20,000/ダブルスタンダードクロージング(フィルム)パンプス¥14,500/ダイアナ(ダイアナ 銀座本店 P3/白レースノースリーブニット¥15,000 オレンジフレアスカート¥23,000/ともにソブ(フィルム) イヤリング¥5,834/アビステ 白サンダル¥15,000/ダイアナ(ダイアナ 銀座本店)