「私はもう、必要ないですよね?」初めて聞かされた、可愛い後輩が隠していた本音
―そろそろ、次のステップに進みたい。
仕事に情熱を捧げ、必死に上を目指していた深山沙織(27)は、ついに昇進への切符を手にする。
勤めているPR会社で、実績が認められ大型案件を任されることになったのだ。
しかし、いつもは優秀な後輩・菜穂子がミスを連発したり、チームがうまく回らないことに焦りを感じ始めた沙織。今まで自分の昇進しか頭になかったことを反省したが、その直後、またしても菜穂子がトラブルを起こしてしまう。
仕事をしていると、「血の気が引く瞬間」が稀に訪れる。
沙織にとってのそれは、昨夜突然やってきた。
気にかけている後輩・菜穂子の、初歩的だけれど重大なミスが発覚したのだ。ミス自体は、致命的なものではなかった。だが、タイミングが悪かった。
今回のクライアントは最近新規で獲得したばかりの、超重要顧客なのだ。そのクライアントと組んで開催する、初の大規模なイベントでのミス。
まだ信頼関係を築けていない今、小さなミスでも命取りになりかねない。そんな状況で、菜穂子が犯したのは、入稿データの間違いという初歩的なもの。
早めに発覚したため、大事に至るようなことではなかった。ただ、本当にタイミングが悪かった。
「深山、チーフが呼んでる。2階の会議室に来いって。」
時計の針が午前9時半を指した頃、同期の雅也から突然声をかけられ、沙織はビクッと肩を震わせた。
—きた…。
雅也から「大丈夫か?」と小声で聞かれ、沙織はわざと大きめの声で「大丈夫よ」と、何でもないという風に答えた。
離れた席から、菜穂子が沙織の方を心配そうな顔で伺っているのだ。菜穂子に、自分の弱気な顔を見せるわけにはいかなかった。それが、沙織なりの優しさとプライドだ。
チーフから何を言われるかなんて、嫌というほどわかっている。覚悟を決めて怒られに行くしかないと、心を落ち着けて静かに席を立った。
沙織は自分を鼓舞するように、9cmのヒールをコツコツと鳴らしながらチーフの待つ会議室へ向かう。
会議室の前に到着すると深く息を吸って、大きな声を出した。
「失礼します…!」