「私はもう、必要ないですよね?」初めて聞かされた、可愛い後輩が隠していた本音
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「あー、疲れたわね。」
15時すぎ。表参道の駅に向かう途中、沙織はそう言って菜穂子の顔を伺ったが、彼女の表情は硬い。
チーフとの話を終えた沙織は、菜穂子を連れてクライアントへ謝罪に向かった。
クライアントへの謝罪が終わると、次は広告代理店や今回のイベントを取り上げてくれるメディア数社など、関係各所を歩いて回り、ようやく会社に戻ろうとしていた時だった。
「沙織さん、本当に申し訳ありませんでした。」
菜穂子が、今日何度目になるかわからない「申し訳ありません」という言葉を口にした。
「大丈夫よ。それよりも、同じミスを繰り返さなことが大事だからね。」
沙織が淡々と言うと、「はい…」という返事はあったが、その声は消え入りそうなほど小さい。そして隣を歩く菜穂子の顔は、まるでこの世の終わりとでも言わんばかりに暗い。
学生の頃から優等生だったのだろう菜穂子は、そつなく何でもこなす。だが、ミスや失敗に対する免疫があまりないようで、今回の件で完全に萎縮し自信を失っている様子だ。
「ねえ、会社に戻る前に、ちょっとコーヒーでも飲まない?」
地下鉄へ続く階段に入る直前。そんな提案すると、菜穂子は力なく頷き、重そうな足取りで沙織の後ろに付いて歩くのだった。
「菜穂子ちゃん、良かったらこれ使ってみて。」
アイスラテを遠慮がちに飲んでいる菜穂子に、沙織は『休足時間』を差し出した。
「これって…?」
菜穂子は、突然目の前に差し出されたものを見て、戸惑いの表情を見せた。
「今日、沢山歩いて疲れたでしょう?これね、昨日使ってすごく良かったから。ハーブの香りもリラックスできるし、特にふくらはぎと足裏に貼るのがお勧めなの。頑張った足に、ご褒美よ。」
チーフとの話が終わった後、沙織は急いで近くのドラッグストアに駆け込み『休足時間』を買っていた。きっと今日は、歩き回ることになるだろうと思ってのことだ。
謝罪に回ることを憂鬱に思っていたものの、ドラッグストアに入って『休足時間』を手に取った時に思い浮かんだのは、菜穂子の顔だった。
菜穂子は、高いヒールはあまり履かないが、それでも今夜は相当な疲労感を覚えるはずだ。気持ちを切り替えるためにも、ひんやりリフレッシュして欲しくて、菜穂子の分も買っていたのだ。
「あ、ありがとうございます…。」
戸惑った表情のまま、菜穂子は『休足時間』をまじまじと見つめる。何か言いたげな雰囲気を出しているが、しばらくの間沈黙が続く。
痺れを切らした沙織が「どうかした?」と尋ねてみると、菜穂子は深刻な表情で口を開き、ある思いを語り始めた。
「実は…。」