港区モード Vol.3

最後の男:“条件”で選んだ夫に募らせる不満。既婚者食事会に参加する、人妻女の胸の内

私は、一流のものが好きだった。靴も、洋服も、カバンも、そして男も。

でも、私の人生で一人だけ、身を焦がすように恋い焦がれた相手は、世間でいう“一流”からはほど遠い男だった。

いい加減で、自由を愛し、夢を追いかけるために不安定な生活を送っていた博樹。20代の前半、一緒に夢を追いかけていたはずが、私はいつの間にか現実ばかりを見るようになり、そんな時に知り合った今の夫と結婚した。

身を焦がすような情熱はなくても。
この人さえいれば何を失ってもいい、なんて思えなくても。
今の夫を選んだことに後悔はない。

夫は日系証券会社に勤める普通のサラリーマンだけれど、目黒の大きな家で商社マンの父親と専業主婦の母親に育てられた、いわゆる“毛並みの良い”男だ。

夫は、目黒区にいくつかの不動産を持っている裕福な家庭で育ったため、すべてにおいて余裕があった。

一流で、上質なものきちんと知っている男。私は彼のそんなところを愛し、「最後の男」に選んだ。

その選択に、不満なんて…ない。



「このお店、来てみたかったんです」

火曜日の夜、先月の食事会で知り合った男と、私は六本木の『常』に来ていた。

内科医として港区でクリニックを開業している彼は、41歳のバツイチ。

「既婚の女性は、結婚を迫ってこないから楽なんだよね」と、最初の食事会で彼は言っていた。別れた妻との間に娘がいることもあって「もう結婚は懲り懲り」と事あるごとに口にする。

最初の印象は良かった彼だけれど、こうして二人でゆっくり話してみると、なんだかとてもつまらなく思えてきた。

最近買ったという高級外車や、豪華なリゾート旅行、クルージングにタワマンでの暮らしなど、自慢ばかりでオチのない話。嫌な人ではないけれど、彼と話していると、時間が過ぎるのがとても遅く感じてしまう、そんな相手だ。

適度に相槌を打ちながらお料理に集中することにした、ちょうどその時だった。


「こんばんは」という男性の声が聞こえて、私は無意識にその声の主へ視線を向けた。するとそこには、すらりとした長身で、洗練された雰囲気をまとう男性がいた。

どうやら常連らしく、店のスタッフと親しげに挨拶を交わしている。


一目で素材の良さが分かるスエードのブルゾン。それを着こなすこの男は、まさに私が理想とするような「一流の男」だった。

余裕と色気があり、どんな場所にもすぐに馴染むような懐の深さを感じられる男。


視線を奪われ、数秒の間思わずその所作を観察してしまうほど、人の気を一瞬で引く男だった。


「薫さんって、本当に美人で聡明だから、旦那さんが羨ましいよ」

他の男性に気を取られてしまっていた私に気づいたのか、隣に座る内科医の彼が分かりやすいお世辞を並べてきた。私は「ありがとうございます」とお礼を言って、ワインを喉に流し込む。

結婚を意識しなくていい男女の関係というのは、本当に楽だ。「この一瞬」の艶っぽさを楽しむための相手。未来の約束や束縛も必要ない。

20代の頃は、結婚後に男性と二人で食事に行くなんて考えもしなかった上に、そもそも既婚女の需要もないと思っていた。

けれど、現在31歳の私は、30歳を過ぎてから、あることをひしひしと感じるようになっていた。

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
どうしても船田さんに気を取られて、話がなかなか入ってこない(笑)
2019/06/11 06:2899+返信3件
No Name
登場人物も背景も楽しい上、毎週船田さんをタイミングよくブッ込んでくる、そこが新鮮で好き🧡
2019/06/11 05:2194
No Name
夫に不満はなくない?
自分の決断に満足出来てないだけでしょ〜
2019/06/11 05:1651返信4件
もっと見る ( 59 件 )

【港区モード】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo