港区モード Vol.2

最後の男:「今日は帰らないでよ」ホテルのバーで口説いてきた男が、隠していた秘密


私の目の前に現れたのは、1週間前に六本木ヒルズで見かけた男だった。

仕立ての良いスーツを着て、六本木ヒルズを颯爽と歩いていたその人。洗練されたスタイルと大人の色気はそのままに、今日は前回とは違うラフな雰囲気を纏っていた。


「FENDI」とプリントされた、存在感のあるロゴTシャツ。それを上品に着こなし、肩には黒のブルゾンをさらりと引っ掛けてバーカウンターへ歩く姿に、目を奪われずにいられなかった。

―あの人、何者なんだろう。

今までお経のようにとめどなく耳に流れ込んできていた向井の声が、急に耳に入らなくなるほど、私はその姿にくぎ付けになっていた。


「…ぇ。ねぇ、千沙ちゃん聞いてる?知り合いでもいた?」

「あ、ごめん」

私が咄嗟に謝ると、向井は不思議そうな顔をして私の視線の先を追った。そしてあの男性を見ると、小さく鼻を「フンっ」と鳴らして、すぐに私の方へ向き直った。

「千沙ちゃん、もう1杯何か頼もうか?飲みたいもの、何でも言ってよ」

向井が私に優しげな笑顔を向けてくるが、私の浮かれていた気分が一瞬にして、急激に冷めていくのを自分でも感じた。

あの素敵な男性を見てしまったら、目の前の向井という男がどうしようもなく滑稽で小さな男に見えてしまったのだ。

「ごめん、私もう帰るね」

「え、どうしたの急に。ねぇ、もう1杯だけ飲もうよ。こんなにタイプな女の子と飲めるの嬉しいんだよ。俺、今日の食事会行って本当に良かった」

さっきまであんなに気持ち良かった向井からの口説き文句が、今ではもう何も心に響かない。私がかたくなに「帰るね」と言っていると、向井は渋々という顔でこう言ってきた。

「じゃあさ、連絡先だけ交換させてよ。次の約束ができるなら、今日は俺、諦めるから」

それならと思ってLINEを交換することにした。どうせ、連絡がきても既読無視をするなりブロックすれば問題ない。

「じゃあ、QRコード出すね」

そうして連絡先を交換した時、私は自分の目を疑う出来事に遭遇してしまった。

「え、向井さん、これってまさか…?」

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