「圭ちゃんは私と同い年、32歳で代理店勤務。爽やかで一緒にいて楽しい人だから、モテるのはわかってました。だけど私たち、付き合ってまだ3ヶ月ですよ?
すぐに彼を問い詰めたかったけどできなくて…翌朝、彼が起きる前にベッドを抜け出し、声もかけずに帰りました。だってスマホを勝手に見たなんて言ったら、ものすごく怒るのが目に見えていたし…」
茜は、その場では彼に理由を告げることなく家を飛び出したのだという。
「私がいなくなったことに気がついた圭ちゃんから、もちろん何度も着信がありました。だけど私は出なかった。気持ちの整理もついていなかったし、どうするべきか一人で考えたかったから」
そうして彼との連絡を一方的に絶ち、3日が経ったころ。
傷つき、ただ動揺していた茜の心に変化が訪れた。自分を裏切り傷つけた彼に対する怒りの感情が、ふつふつと沸き上がってきたのだ。
「もう嫌われてもなんでもいい。とにかく言ってやらないと気が済まないと思って、LINEを送ったんです。他の女を家に連れ込むなんてひどいじゃないかって。もう会いたくないって。スマホを勝手に見たことについては、きちんと謝りました」
突如音信不通となった彼女からの連絡を、彼の方も待っていたのだろう。送ったLINEはすぐに既読になった。
…しかし待てど暮らせど、返信は届かなかったという。
「スマホを勝手に見たことに対して怒ってるんでしょうね。だけどそもそも疑われるようなことをしたのは圭ちゃんのほう。先に私を裏切って傷つけたのも圭ちゃんなのに逆ギレするなんてありえない。全然返事がこないから、その日の夜、私から電話をかけました」
彼はすぐ電話に出てくれたという。しかし彼の対応はというと、茜が望んでいたものではなかった。
「私はただ…謝ってほしかった。本当は茜のことが一番で、もうしないから許してくれって、そうやって必死で縋ってほしかったの。それなのに圭ちゃんは私が責めても言い訳すらしない。ただ“ごめん”を繰り返すだけ。挙げ句の果てには、俺もちょっと一人で考えたいから、しばらく距離を置きたいとか言い出して」
その時のショックを思い出したのだろうか。痛みに耐えるように、茜はきゅっと唇を結んだ。
「どうして?って。それだけ言うのが精一杯でした。まさか、圭ちゃんの方から距離を置きたいなんて言われると思わなくて。私たち確かに付き合ってまだ3ヶ月だけど、その前に友達の期間もあったし、お互い真剣に向き合っていたはず。それなのに…」
しかし、いったん引きモードになった彼の心を無理やり戻すことなどできない。距離を置きたいと言われれば、茜としてはそれを受け入れるしかなかった。
「自然消滅みたいにだけはされたくなくて、気持ちの整理がついたら必ず連絡してねって念押ししました。圭ちゃんもわかったと言ってくれて。…これで終わりじゃないんだって、少しだけホッとしました」
この記事へのコメント
圭介にとっては、ふたりともデートの相手に過ぎない気がする……