Who? Vol.9

「彼女に嘘をつき続けるのが苦痛…」早朝、女の部屋から静かに去った男の、誰にも言えない葛藤

別人になって15年。もう息をするように嘘をつけるはずの僕が、光希を前にするとそれが苦しくなるなんて。

「今じゃなくていもいいから…いつか私に、本当のことを教えてくれる?」

しばらく沈黙が続いた後、腕の中の光希がそう言った。

「…まだ、早いから、もう少し眠ろう。今日は大事な打ち合わせがあるから寝不足だとまずいんだ」

またうまい返事が見つからず、戸惑いながらそう言った。

光希が、ゴソゴソと子猫のように僕の胸に顔を埋め、しばらくすると寝息を立て始めた。それを確認してから、僕はベッドをすり抜けるとシャワーを借り、帰り支度をする。


スヤスヤと眠る穏やかな光希の寝顔とは対照的に、窓の外の雨は激しくなるばかりで、時折遠くで雷も鳴っている。

不意に光希の頰を撫でたくなった衝動を抑えながら、その寝顔をしばし見つめる。

『いつか、本当のことを教えてくれる?』

光希がどんなつもりでそう言ったのかは分からない。でも。

―秘密を告白すれば…楽になれるのかな。

馬鹿げた考えだと思いながら、僕は静かに光希の部屋を出た。



「今回の企画を担当いたします、須田歩です。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

僕が光希の部屋を出て、およそ5時間後の午前10時。

約束の時間の5分程前に、僕の事務所に訪ねてきたのは、記者の須田歩と、カメラマンを名乗る男性の2名だった。

―調査報告書の写真より少し大人びて見えるな。

調べ上げた彼女の情報を頭の中で復習しながら、僕は素知らぬ振りで彼女に、はじめまして、と言った。

純文学の編集者を志望していた須田歩が、誰もが異動したがらないほど仕事がキツイという、週刊誌truthの記者に立候補したのか。

それに気になるのは、僕をあからさまに嫌っているあの名物編集長の田村が、僕の連載を許したことだ。

田村にはこれまで、嫌な記事を書かれたことが一度や二度ではないし、出版社やスポンサーがらみのパーティで会った時に、酔いの回った彼に、あからさまに絡まれたこともある。

「レオナルドさん、でしたっけ?あんたハーフのイケメンってだけで成り上がれるなんて、ラジオ業界は簡単なんですねぇ。まあうちら、紙の人間には関係ない話ですけど。

俺の直感が、あんたのこと胡散臭い、ってビンビンに警告してるんですけど。あ、俺は勘で仕事してるようなもんですから、結構当たるんですよ。でも世間ってやつは顔がいい男には簡単に騙されるもんですねぇ」

僕を彼に紹介した田村の上司に当たる人物は、慌てて僕に謝り、田村を僕から遠ざけたけれど、僕は妙に感心してしまった。以来、彼には一目置いているし、彼には気をつけるようにと茜さんからもずっと言われてきた。

―彼が許すような企画じゃないだろう。僕が語る夢の話なんて。

だから、僕にはほぼ確信に近い仮説がある。この企画は僕を嵌めるためのダミーだ。それを分かっていて、僕はこの企画を受けたのだ。

―さあ、ボロを出すのはどっちでしょうね、須田歩さん。


ーレオは、歩の罠から逃れるため、ある条件を提示する。歩はそれを渋々承諾するが…?ー.....

この記事へのコメント

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No Name
来週 第1部 最終話。 第2部が有るんだ! 楽しみ~
2019/03/23 05:2429返信1件
No Name
騙そうと思ってる時が一番騙されやすい、って、ってことは、最終的に騙されるのはどっちなんでしょうー!?ゾクゾクが止まらない!
2019/03/23 07:1823返信1件
No Name
最後の写真の人があまり男前そうでない。
2019/03/23 07:4022
No Name
光希みたいに超素直な子には心を許してしまいそうになる感覚、わかる。
素直な人は最強。
2019/03/23 11:2813
No Name
15年間、ずーっと誰とも付き合わなかったのかな。
孤独だったろうなぁ。。。
2019/03/23 11:1412返信2件
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