実家暮らしの恋 Vol.5

「あなたはどうしたいの?」両親に依存していた28歳女に突き付けられた、“自立”への問いかけ

突然の提案に、遥は一瞬唖然としていたが、こくこく、と首を縦に降った。

「…圭介、考えてくれてありがとう。嬉しい」

遥は、ようやくビールに口をつけ、気持ち良さそうに一口飲み込む。そして、恥ずかしそうに圭介に打ち明けた。

「私ね、反省した。圭介は今の環境の中で、私との時間を作ってくれようとしてくれている。なのに私は、実家に甘えている自分を棚に上げて、ふたりの関係は実家への愛着未満なんだ、とか、一緒にいる時間が少ないから、圭介に言いたいことが言えない、とか、勝手に思い込んで、独りよがりで不満ばかりだった。自分で変わろうとしていなかったね。

圭介と一緒に暮らしたい。早く、両親に話すね。」

その遥のスッキリとした表情は、圭介を安心させたのだった。

「あなたはどうしたいの?」問われる遥


目黒川の桜の葉が青々と茂り、風に心地よく揺れている。

遥は、圭介の実家近くのレストラン『リストランテ カシーナ カナミッラ』に来ていた。

「俺の両親は自営業で、堅くないから、そんなに気負わないでね」

圭介からそう伝えられていたものの、遥は白いブラウスにジャケットを合わせてきた。

「圭介お待たせ!ごめんな、打ち合わせが長引いちゃって」

グラフィックデザインをやっているという圭介の父親。まさに自営業、といった風格で、シャツをラフに着こなしている。

そのすぐ後ろを、ゆったりしたワンピースに身を包んだ女性がやって来る。ジュエリー作家をやっているという圭介の母親だ。首元と手元に施された繊細なゴールドのアクセサリーがなんともおしゃれだ、と遥は思った。

「こんにちは…!はじめまして、一ノ瀬遥と言います。」


「お目にかかれて嬉しいわ。圭介、こんな綺麗なお嬢さんとお付き合いしていたのね」

圭介の母親が爽やかに微笑む。遥はその表情に歓迎の意を汲み取り、僅かに緊張がほぐれた。

食事を味わう暇もないほど、圭介の両親二人から、遥は仕事や大学のことなど、あれこれ質問を受けたが、終始好意的なムードだった。少し場が温まったころ、圭介が姿勢を正して言った。

「俺、遥さんと真剣に交際していて。一緒に住みたいと思うんだ。」

圭介の父が解れた表情で言った。

「よかったじゃないか。そこまで好きだと思う女性に出会えて。」

優しい言葉に、遥は心の底から安堵する。

「そうよ。圭介は一度家を出て今戻ってきているだけだし、またいつかとは思っていたから。でも…遥さんはそれでいいの?」

圭介の母親からの問いに、遥はこう答える。

「…私も実家に住んでいるので…両親と相談しますが…」

あら、と圭介の母親は夫を見る。

「遥さんは、どうしたいの?」

圭介の父親が、遥に微笑みかける。責めるわけではないその穏やかな口調に、はっと気付かされた。

―親がどう思うか、ではない。「私が」どうしたいか、なんだ。

「…ごめんなさい。私も、圭介さんと真剣にお付き合いさせていただいています。一緒に暮らしたいと思っています。どうかお許しいただけませんか。両親には、私からよく説明します。」

頭を下げる。圭介も一緒に頭を下げた。

―ああ、意志のない、ダメな娘、って思われたかも知れない…

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