周囲が羨む、優雅なDINKSライフ
美男美女カップル、ハイスペ夫、港区のタワマン。
上を見たらきりがないが、あずさは、一般的な人間が羨むもののほとんどを手に入れ、不自由のない生活を送ってきた。
丸の内に本社を構える保険会社の一般職で、役員秘書をしているあずさは、丸顔にクリクリした大きな瞳、小動物のような愛らしいルックスで、これまでの人生で男性に困ったことは一度もない。
そつなくこなしてきたのは、恋愛だけではなかった。
中学、高校、大学受験、就職活動。それら人生の重大イベントを要領よくこなし、自身の望む"まずまず"のランクのものをあっさり手に入れてきた。いわゆる挫折というものを経験したことがないのだ。
特に結婚してからの2年間は、仕事もプライベートも絶好調だ。自分でも怖くなるほど、順風満帆だった。
1歳年上の夫・雄太は、赤坂の戦略コンサルティング会社に勤務している。
東大経済学部卒。身長180cm、アバクロがよく似合う筋肉質の体型で、切れ長の目に鼻筋の通ったクールな顔立ち。
高学歴、高身長、高収入、加えてイケメンの、超優良物件だと言われてきた男だ。
二人の出会いは定番の食事会。そろそろ本気で結婚相手を探そうと思っていたあずさの前に現れたのが、雄太だった。
学歴、収入、ルックスの全てが高水準でバランスが取れている。さらに頭の回転が速く、話も面白い。高慢なところもあるが、適度なSっぽさは女心をくすぐった。
結婚後、二人は田町のタワーマンションで暮らしており、あずさは密かに、近所の愛育病院での出産に憧れている。
記念日には必ず思い出の『シグネチャー』を訪れ、休日や長期休暇には国内外の高級ホテルでステイを楽しむ、優雅なDINKS生活を謳歌中だ。
ーやっぱり私、雄太と結婚してよかった。見る目は確かだったんだ。
仕事もプライベートも充実している今、そんな風に幸せを噛み締めている。
一方で、周囲の女友達の多くは、不甲斐ない夫の不満をぼやいたり、夫婦不仲の悩みを抱えている。それらを耳にするたび、そんな心配とは一切無縁な自分の暮らしや夫の存在に、心から感謝するのだった。
◆
仕事を終えたあずさは、帰る道すがら、近くのスーパーやドラッグストアに立ち寄った。
結局今日、雄太は体調不良で会社を休んだのだ。今朝はバタバタして家を飛び出してきてしまったが、夫のために、うどんや野菜、栄養ドリンクに市販の風邪薬を大量に買い込むことにした。
−ふぅ…重い。
ふと手に目をやると、ビニール袋の持ち手が指に食い込み、赤くなっている。
普段、ネットスーパーやAmazonで日用品のほとんどを調達しているあずさは、大量のものを入れたビニール袋の重さに、思わずため息をついてしまった。
ーゆうちゃん、病院でちゃんと診てもらったかな…。
今朝、体温は測ったのかとか辛い症状はあるのかと尋ねても、雄太は頑なに「大丈夫」と繰り返すのみだった。だけど、朝見た雄太の、血の気のない顔を思い出して、あずさはふと考えた。
そういえば、雄太が最後に朝のジョギングをしているのを見たのは、いつだっただろうか…。
それに、思い返してみると、ここ最近の彼はどこか様子がおかしい。
朝はギリギリまで布団にもぐっているし、起きてきても目の焦点が合っていない様子で、ぼーっとしている。
ー激務が続いているから、体壊しちゃったのかも…。
そんな風にも思ったが、雄太の激務は今に始まったことではない。それでも彼は、仕事に対する不平や不満をこぼすようなことは、一度だってないのだ。
この記事へのコメント
でも人生最初の試練を存分に味わってほしいです。(笑)
あっさり離婚とかやめてね(笑)
状況がわかってないせいだろうけれど、あずさの思いやりのない態度にイライラしてしまった。
まぁ、来週から、メンタルやられた夫の世話する羽目になるんだろうけれど。でも、金銭的苦境に陥るまではいかないんだろうな、東カレだし。
同性だけどこの手の女って苦手だわ。