略奪愛 Vol.10

全社メールで暴かれた、上司と部下の略奪愛。窮地に追い込まれた女が下した決断とは

爽やかで人当たりが良く、端正な顔立ちで身長も高い。誰に写真を見せても「かっこいい!」と絶賛される彼は私の自慢だった。

家柄や出自にうるさい両親も亮だけは一目で気に入り、頑固で気難しい父親と和やかに談笑する彼の姿を見て、幸せな結婚をするなら彼だ、と確信したのだ。

それに彼にとっても、私との結婚はメリットしかなかったはずだ。

亮はもともと独立志向が強くどこかのタイミングで絶対に起業したいと話していた。実家に資産がある私は彼に安定を求めることもない。父が営む宝石事業も私自身が継ぐ予定で、亮に足かせがかかるわけでもない。

亮の人柄を絶賛する両親も彼の野心に理解を示し、無駄な支出をする必要はないと言って、実家所有のマンションを新居にプレゼントしてくれた。

私たちはどこから見ても、何不自由のない、スマートで自立した理想的な夫婦だ。

たとえ多少のすれ違いがあっても、この居心地の良さを手放すなんてありえない。

そう。もし万が一、私たちが離れるようなことがあるとすればそれは…どちらかが何もかも捨ててもいいと思えるほどの情熱的な愛に出会ってしまった時、だろうか。

けれどそんなこと、まず起こり得ない。

私も亮も十分に世の中を知っている。

恋だの愛だのが一時の幻想だということも、よくよく知っているはずだから。

明日香:「一体、誰がこんなことを…?」


大谷と暮らし始めた私は、多少の引っ掛かりを感じながらも、新婚生活さながら甘い毎日を過ごしていた。

愛する人が毎日必ず自分の元へ帰ってくる。毎晩必ず、抱き合って眠れる。

その安心感がもたらす幸福はかつて経験したことがないほどで、私は朝に晩に、この日々が永遠に続くことを願った。

だが穏やかな幸せを感じられたのはほんの一瞬で、私のささやかな願いはあっけなく砕け散ることとなるのだった。

しかも…まるで予想もしていなかった、最悪の形で。


年末の忙しさが街に漂い始めた、師走のある朝のことだ。

わざと時間をずらし、大谷より先に出社する。いつも通りのルーティンでオフィスフロアに足を踏みいれた私は、その瞬間、流れる異様な空気に気がついた。

「おはようございます」

声を出しても、誰一人としてこちらに視線を向けようとしない。ただ一人、前の席に座る徹だけが、私をまっすぐに見つめていた。

「…何?なにかあった?」

PCを立ち上げながら小声で問いかけるが「いや…」と口ごもる徹。

ざわざわと嫌な音を立てる胸を押さえ、メールボックスをクリックしたその時。業務メールに混ざって、圧倒的に異質なタイトルが目に飛び込んできた。

“【証拠写真あり】三好明日香は不倫略奪女”


−何、これ…。

瞬時に背筋が凍り、マウスにおいた指がカタカタと震えた。

差出人はフリーアドレスで、何者かわからない。見ず知らずの誰かから向けられた、明らかな悪意。

私は息をするのも忘れ、震える手で恐る恐るそのメール......


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