あの子が嫌い Vol.2

同棲して2年経つのに、年末年始は別々なの…?結婚してくれない彼氏から「面倒」と言われた29歳女

「ほーんと、りか子ってエライよね。」

そんな呑気な事を言っているのは、地元の幼馴染・美香だ。

結局、修一の「実家にでも帰れば?」という言葉通り、私は新年を地元の鎌倉鶴岡八幡宮で迎えることになってしまった。

久しぶりに再会した美香と2人で歩く若宮大路は、大晦日のため、真夜中だというのに信じられないほどの人で溢れかえっている。

「そんなこと無いよ…。普通に働いてるだけだもの。」

「なーに言ってるの!」

ここから先は、里帰りのたびに繰り返されるいつもの会話だ。両親も、幼馴染も、口をそろえて同じことを言う。

「地元を出て、東京で働いて、しかも人気雑誌の編集部!秘書なんて誰にでも出来る仕事じゃないでしょう?羨ましいなぁー。」

美香の言葉に私は愛想笑いを浮かべ、小さな声で「ありがとう」と告げる。

私が、安定安泰の百貨店勤務を捨てて選んだ仕事は、三ヶ月更新の契約社員。しかも、仕事内容はただの雑用だなんて、美香は微塵も思っていないのだ。


「昔から、りか子って"真面目な努力家"だよね。ほんと尊敬しちゃう。」

ふと、美香が無邪気な笑顔で私を覗き込む。目尻を目一杯下げて、まるで作り物のような笑顔で。

「ずっと地元を離れない私とは、大違い。」

美香の実家は小町通りから一本裏道に入ったところにある、老舗の和菓子屋だ。一人っ子の美香には、実家を継ぐ以外に選択肢などなかったのだ。

「覚えてる?高校の時、卒アルに"将来の夢"書かされたの。」

「あー、あったね。懐かしい。美香は実家を継ぐ、だったよね。」

あの頃は全てがキラキラと輝いていた。今みたいに誰かを妬んだり、思い通りにならない現実に振り回されたりせず、ただまっすぐ、自分の進むべき道を歩いていたのに。

卒業アルバムに「エディター」と書いたあの頃。遠回りしているけれど、それでもどうしても諦めることが出来ない編集者への道。

あと少しで手に入れることができたはずだったのに。あの女さえ、いなければ。

「あ、そうそう。私、来年結婚するの。」

「え!?そうなの?」

八幡宮の鳥居をくぐると、美香はそれを見上げながらおもむろに結婚報告をした。ふと左手の薬指を見れば、ダイヤモンドが眩しすぎる輝きを放っている。

「式の招待状送りたいんだけど、住所変わってない?」

「う、うん。南青山のままよ。」

私がそう答えると、美香は少しだけ意地悪く「ふうん」と言って微笑む。

「ねえ、りか子。」

「あんたってさぁ、高校の時の夢、結局叶えられたの?」

そう言って、ニヤリと笑みを浮かべる美香の顔が、私には醜く歪んで見えてしまった。

遠くでは除夜の鐘が、鳴り続けている。


▶Next:1月4日 金曜更新予定
くすぶり続ける無個性女子、ついに反撃の時が来る。帰国子女の意外なSOSとは?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
地元が思ったより東京に近かった
九州とか東北から出てきてるのかと思ってた
2018/12/28 05:4199+返信69件
No Name
修一… りか子が遠慮気味に、実家に帰る時に同行したいと言ったのに、「…いや、そんなの面倒だからいいよ」って…20代後半の女の子に 2年間も同棲させといて、あんまりだと思うけど!ただの「都合のいい女」扱いじゃないか…別れなさい!笑
2018/12/28 06:4399+返信12件
あんたって呼ばれるの抵抗あるなあ。
2018/12/28 05:3699+返信24件
もっと見る ( 236 件 )

【あの子が嫌い】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo