あの子が嫌い Vol.2

同棲して2年経つのに、年末年始は別々なの…?結婚してくれない彼氏から「面倒」と言われた29歳女

―ずいぶんリアルな夢だったわ…。

私は修一を起こさないようにベッドを抜け出すと、ドリップコーヒーをいれながらぼんやりと考える。

毎年、この時期の編集部は年末進行に追われ戦場と化すのだが、今年はどういうわけか和やかな雰囲気を保っていた。

時折、笑い声さえ聞こえる編集部のデスクを盗み見ると、小阪アンナがその中心にいた。初めて挨拶した日と同様に、まるで外国人のような大きい身振り手振りと大げさな喋り方が、ひときわ目立っている。

まだ入社して一ヶ月も経っていないのに、彼女はしっかりとSPERAREの編集部に馴染んでいたのだ。

その姿に、私は焦っていた。だからあんな夢を見たのだろう。

複雑な気持ちを抱えたまま、朝食の準備に取り掛かるのだった。



外資系コンサル企業に勤める修一とは、付き合って2年になる。

上京してすぐの頃、精一杯めかし込んで参加したお食事会。そこで出会ったのが、彼氏の安藤修一だ。

出会った当初は「東京に染まっていない」私を気に入ったようで、ずいぶん熱心にアプローチしてくれた。

付き合ってからはトントン拍子で、同棲する仲にまでなったというのに、そこから私たちの関係はずっと足踏み状態だ。

仕事も恋愛も中途半端なまま迎えてしまった、20代最後の冬。

―あの頃は、仕事も恋も順調だったのになあ…。

私のお気に入りの、リビングの窓から見下ろす表参道の景色。修一と暮らし始めた頃は輝いて見えたというのに、今は心なしか霞んでいる。


「どう?『目黒フラット』のミルクフランス、買ってきたのよ。コーヒーもクラシックフレンチに変えてみたの。」

修一は私の問いかけにイエスともノーとも言わず、スマホをいじりながらミルクフランスをかじっている。

久しぶりに気合を入れて用意した朝食も、丁寧に豆を挽いて淹れたコーヒーも、彼の心には響かないらしい。

最近はずっとこんな感じだ。一緒に出かけることも少なくなってしまい、彼にとってはただの同居人に成り下がってしまったのだろうか。

そんな不安を振り払うように、私は話題を変える。

「修一、年末どうするの?」

「ああ。俺は一応、実家に帰るよ。」

長期休みのたびに予定を確認するけれど、そこに私が同行することはほとんど無い。その行き先が彼の実家ならなおさらだ。

「ねえ、今年は私もご挨拶に行こうか?もう一緒に住んで2年になるんだし…。」

決して重たくならないように、軽い口ぶりで提案したつもりだった。しかし、そのことを私は3秒後に激しく後悔することになる。

「…いや、そういうの面倒だからいいよ。」

「面倒」という一言で片付けられてしまえば、それ以上は何も言えなかった。

「りか子も、年末は地元に帰ってくれば?」

今年も、この関係を進展させることも終わらせることも出来ないまま、新年を迎えなくてはならない。そのことだけが明確な現実として突きつけられた。

ため息とともに、私はブラックコーヒーを飲み干すのだった。

この記事へのコメント

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No Name
地元が思ったより東京に近かった
九州とか東北から出てきてるのかと思ってた
2018/12/28 05:4199+返信69件
No Name
修一… りか子が遠慮気味に、実家に帰る時に同行したいと言ったのに、「…いや、そんなの面倒だからいいよ」って…20代後半の女の子に 2年間も同棲させといて、あんまりだと思うけど!ただの「都合のいい女」扱いじゃないか…別れなさい!笑
2018/12/28 06:4399+返信12件
あんたって呼ばれるの抵抗あるなあ。
2018/12/28 05:3699+返信24件
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